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乳がん症例でみる検体の取扱い
-固定を制する者は病理の未来を制する-

桑尾 定仁

東大和病院 病理細胞診断科


 近年、乳がん診療の分野に個別化医療の波が押し寄せ、molecular subtype分類が登場した。従来ならば凍結材料が必要とされた遺伝子解析が、ホルマリン固定パラファイン包埋材料にてもHER2遺伝子の増幅解析が可能となったからである。
 演者は以前より大型臓器の固定に不向きな10%中性緩衝ホルマリン一辺倒の固定から、より早く、より確実で取扱いしやすい固定について検討を重ね、ほぼ満足来る固定法を完成した。使用するホルマリンはユフィックス迅速固定液(サクラ)で、検体の大きさによって、5倍希釈液と2倍希釈液を使い分けるものである。ユフィックスはホルマリン、エタノール、クエン酸及びシネオールを配合したもので、原液は38%のホルマリン濃度を有している。優れた浸透による固定が特徴で、5倍希釈では7.6%、2倍希釈では19%の濃度となる。
 乳腺材料は乳房全摘と部分切除材料とに大別され、大きさの点でかなり異なっている。ASCO/CAPのガイドラインでは乳がんの固定に10%中性緩衝ホルマリンによる固定を推奨していたが、固定が必ずしも良好ではなく、生検材料と手術材料間でのHER2-FISH検索には問題を生じていた。筆者は乳腺検体については、まず2倍希釈のユフィックスを用いた注入固定を行い、全摘材料については浸漬固定、部分切除材料については陰圧固定を行っている。固定の可否については針生検材料あるいはマンモトーム材料(10%中性緩衝ホルマリン固定材料)の免疫染色及びHER2-FISH結果と比較検討を行い、形態と遺伝子情報の保存に乖離が起こらないことを証明した。この結果は乳がん以外のがん、特に脳腫瘍や肺がんへの診断及び遺伝子解析にも応用が可能である。
今後、ホルマリン固定パラフィン包埋材料を用いた遺伝子解析がますます進歩するものと考えられ、まさに、「固定を制する者は病理の未来を制する」とも言える。


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