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病理材料を用いた分子生物学的解析の実際と工夫

郡司昌治

名古屋第一赤十字病院 細胞診分子病理診断部


 分子標的薬剤の登場により個別医療に対する分子生物学的解析が必須となった。また病理細胞診断,Grade 分類への鑑別補助的診断に用いられ,軟部腫瘍,中皮腫,脳腫瘍などに応用されている。解析はFISH、PCR法の手法が用いられ,パラフィン切片,細胞診スメアを用いるのが主流である。病理材料は新鮮材料とは異なり、固定された材料であるため,プロトコール通りに行っても解析に苦慮することもある。解析操作にひと工夫を加える必要もある。
 FISH染色のポイントは酵素処理である。処理時間は固定条件やパラフィン切片の厚さによって異なる。また臓器でも処理時間が異なり,非上皮性腫瘍は上皮性腫瘍に比べ酵素処理の時間が長い傾向にある。強いシグナルを得るには最適な酵素処理操作が重要となる。またFISH染色は核のみが染色され,細胞同定に苦慮することもある。組織切片は連続切片を作成することにより,腫瘍分布や細胞形態が把握できる。しかし,細胞診材料は標本ごとに腫瘍分布が異なり,DAPIで染色された核所見のみでは正常細胞,腫瘍細胞の鑑別に苦慮することもある。染色標本からのFISH解析は未染標本では把握できない腫瘍分布や細胞形態が把握できるため染色標本からのFISH解析は非常に有用な手法である。
 PCR解析を行うにはDNA,RNA抽出が必要となる。我々はQIAGEN 社,QIAamp DNA Mini Kitを用いてDNA抽出を行っている。抽出のポイントは酵素処理であり,組織や細胞材料を完全に溶解することが重要である。溶解が不十分な場合はDNA抽出効率が低下することがあり,95℃,10分程度の追加熱処理を行うことで組織は溶解する。またHE,Papanicolaou染色された標本からも同様の操作で抽出可能である。脱色操作は必要なく,洗浄操作過程で廃液に染色液は回収され,脱色は完了となる。
 本講演では解析テクニックの工夫と臨床応用を中心に述べていきたい。


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