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バイオバンクの現状と未来

佐々木 毅

東京大学医学部附属病院
ゲノム病理標準化センター/地域連携推進・遠隔病理診断センター


 日本の国プロとして現在「オーダーメイド医療の実現プログラム」「ゲノム医療実現化プロジェクト」が展開している。これは、遺伝子レベルの疾患研究を展開して「個別化治療=副作用等の少ない、患者にやさしい医療」を実現することを目的に、2008年に文部科学省により立ち上げられ、2015年日本医療研究開発機構AMEDに引き継がれたプロジェクトである。これまですでに、高脂血症5.5万人分、糖尿病4.4万人分、白内障2.6万人、脳梗塞1.8万人、乳癌0.66万人など、約80万人、約200万人分の血清が、東京大学医科学研究所に設置されたバイオバンク・ジャパンBio Bank Japanの血清バンキング用液体窒素タンクに保管され、研究者等に提供されている。
 この血清バンキングに続いて2014年より、主に悪性腫瘍の「病理組織バンキング」が開始される予定になっていたが、血清バンキングとは異なり、質の高い組織バンキングのためには種々の順守すべき工程があり、これからが忠実に守られない場合には、「使い物にならないバンキング」になってしまう可能性が高いことがゲノム研究者より指摘された。
 これを受けて、2014年文部科学省からの委託事業として日本病理学会のゲノム研究施設8施設で実験を通した実証研究が実施され、2年間で「(ゲノム研究に資する質の高い)病理組織取扱い規程」が刊行された。同時にその周知、人材育成を行うための「ゲノム病理標準化センター」が東京大学医学部附属病院に設置された。
 現在、癌の分子標的治療では、「異常タンパクの過剰発現」を確認しての治療が主であるが、今後はゲノムシークエンスによる、ゲノム情報を基に細分化された「副作用等の少ない、患者にやさしい医療」が導入されるようになると考えられる。これらのシークエンスは病理組織検体を用いて行われる可能性が高く、病理検査技師の役割はさらに重要になってくるものと考える。


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