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腎生検組織標本の特殊性について

橋口明典

慶應義塾大学医学部病理学教室


外科病理学において,特に特殊な知識が必要とされるサブスペシャリティーsubspecialityの例として,血液・腎・神経・皮膚病理が挙げられる.これらの分野では,診断する病理医が自らの診断が臨床的にどのような意義を持つのか,良く理解していなければならない.そのため当然ともいえるが,これらの領域の組織標本は特殊な方法によって評価がなされている.
腎生検組織については,以下の点について留意する必要がある.1. 多くが非腫瘍性疾患の病理診断である.2. 糸球体という微細な構造を観察する必要がある.3. 免疫グロブリン・補体の関与を検討すべき疾患が多い.4. 細胞外マトリックスや沈着物など,ナノメートルレベルの構造を観察する必要がある.
非腫瘍性疾患の診断では,採取された組織全体を観察し,その傷害の質・量を総合的に評価する.形態がどのような機能的障害と対応するのか,少ないサンプルから臨床像を説明しなければならない.半定量的な評価がなされるため,安定した精度で切片が作製されることが望まれる.
約200μmの糸球体という毛細血管構造を観察するために,切片は適切な厚さである必要があり,ヘマトキシリン・エオジン染色の他に,基底膜の観察に適したPAS (Periodic acid-Schiff) 染色,過ヨウ素酸メセナミン銀(Periodic acid- silver methenamine, PAM)染色が常に施行されている.
糸球体疾患の診断には,必ず免疫グロブリン・補体の沈着の有無を検討する必要があり,凍結切片を用いた蛍光抗体法による検討がなされている.
糸球体基底膜の状態,沈着物の性状,細胞突起などの微細構造が,しばしば診断に必要な場合があり,電子顕微鏡用の試料が採取され,検討される.
電子顕微鏡が未だに実用的に用いられているということからも想像される通り,腎生検病理は組織形態学の究極といえるかもしれない.形態学は病理学の根幹であり,「特殊」とはいいつつも,病理組織技術の基礎的能力が良くも悪くも試される分野であるといっても過言ではない.


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