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鍍銀染色(渡辺の鍍銀法)の染色メカニズム

廣井禎之

防衛医科大学校臨床検査医学講座


渡銀染色の原理は組織の1)酸化、2)還元、3)増感、4)銀アンモニア錯体との反応、5)還元、6)調色、7)定着からなる。
1)酸化:背景蛋白や線維を過マンガン酸カリウムで酸化分解する。これには細網線維を浮出、膨化させる効果と、細網線維の構成成分の一部である糖のグリコール基を酸化してアルデヒドにする効果がある。生じたアルデヒドは銀イオンを還元して金属銀の微粒子を生成する。この微粒子は還元過程において中心の核(粒子)となる。酸化が不十分だと膠原線維が黒く染色され、過酸化だとアルデヒドかカルボン酸となり細網線維の細部は染まらず、かつ線維の過膨化、断列が生ずる。
2)還元:酸化処理により組織切片内に付着した褐色の二酸化マンガンをシュウ酸で還元してマンガンイオンとして流出させる。
3)増感:鉄ミョウバンで切片を処理することにより、鉄イオンが組織内部に存在している化学的反応基(アミノ基、他)を引き出し、銀アンモニア錯体と親和しやすくさせる。
4)銀アンモニア錯体との反応:硝酸銀水溶液に水酸化カリウムを加えると白色の水酸化銀が沈殿し、さらに分解して褐色の酸化銀の沈殿が生ずる。次にアンモニア水を加えてゆくと銀アンモニア錯体となって溶解する(アンモニア銀液)。銀アンモニア錯体は組織標本上の主にアミノ基と交換反応により組織蛋白と親和する。また、酸化処理により生じたアルデヒドにより銀イオンが還元して金属銀の微粒子を生成する。
5)還元:銀アンモニア錯体の還元にはホルマリンが用いられる。組織蛋白と結合した銀イオンがその組織に沈着したり、アルデヒドにより還元された金属銀の微粒子を中心の核(粒子)として金属銀が沈着する。銀粒子が組織中の構造間隙に生じ、さらに銀粒子が大きくなると発色する。組織間隙が小さければ銀粒子は大きくなれないし、逆に大きすぎれば流れだしてしまう。酸化処理はやはり重要である。
6)調色:還元操作により生じた銀粒子に金を沈着させ、色調を整えて鏡検しやすくする。銀は金よりイオン化傾向が強いので、銀粒子の一部がイオン化して溶けだし、代わりに金イオンが金属金として銀粒子の上に沈着する。
7)定着:染色過程で銀イオンとして組織切片に結合している、あるいは銀塩の形で組織中に存在するものをチオ硫酸ナトリウムで処理してそれらを切片から溶出させる。


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