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抗原賦活化のメカニズム

藤田浩司

東京医科大学分子病理学講座


 免疫染色における抗原性の減弱または消失(いわゆるマスキング)は,ホルマリン固定によるメチレン架橋やブロック作製から脱パラフィンに関わるキシレンなどの有機溶媒によっておこる.マスキングの原因は主に2つに分けられる.1つはエピトープ(抗原決定基)周囲のポリペプチド鎖網がメチレン架橋により緻密になり抗体がエピトープへ辿り着けない場合ともう1つはエピトープ自身の高次構造の歪みによりエピトープとして認識できない場合である.これらマスキングされたエピトープに抗体がアクセスできるようにする方法に抗原賦活化がある.抗原賦活化はプロテアーゼなどを用いたタンパク分解酵素法とpH6クエン酸緩衝液やpH8~9(Tris)EDTA液などを用いた加熱法が主流となっている.抗原賦活化のメカニズムはタンパク分解酵素・熱・pH・溶質ごとに考察することができる.
〈タンパク分解酵素の作用〉タンパク分解酵素は酵素の種類により特定のペプチド結合を切断することでメチレン架橋により緻密になったポリペプチド鎖網が緩くなり抗体がエピトープへ結合する.
〈pHの作用〉タンパク質は自らを取り囲むpH環境によって電気的特性が変化し荷電する.この性質を利用し其々のエピトープの等電点と対極のpH域の賦活液を選択するとエピトープは強い荷電を得ようとする.その際,熱エネルギーによる分子運動が加わることでメチレン架橋の解離を効果的にする.
〈熱の作用〉上述のように加熱によりメチレン架橋の解離を促す.さらに重要な作用として歪んだエピトープを一度伸ばし,その後ゆっくりと室温に移行させることで本来のエピトープに近い状態に再構築させる.これはアミノ酸配列によりポリペプチド鎖の高次構造が決まる性質を利用したものである.
〈溶質の作用〉ホルマリン固定時にCaイオンがエピトープに取り込まれマスキングの原因となることがある.クエン酸ナトリウムとEDTA液はペプチド鎖に取り込まれたCaをキレート錯体としてとり除くことができる.
以上,簡単ではあるが抗原賦活化のメカニズムにいて述べた.


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