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病理形態学からみた肝硬変の形態発生(formal pathogenesis)の話

羽野 寛

東京慈恵会 慈恵看護専門学校


 肝硬変は、病理組織学的には結合組織によって囲繞された実質の結節性“まとまり”(再生結節)によって、肝臓全体が置換された状態を指している。障害が進行すると肝性脳症、黄疸、腹水、出血傾向などの症状が出現する。相俟って門脈圧亢進症による、脾腫、食道静脈瘤、腹壁静脈怒張(メヅサの頭)などを併発し、しばしば肝癌発生を見る。多数の原因があるが、ウイルス性肝炎(特にC型)、アルコール性および非アルコール性肝障害(ASH、NASH),PBCなどは日常よく遭遇する。肝硬変は早くて数年、多くは数十年の慢性経過をとって独特の形態を示すに至るのである。
再生結節は偽小葉ともいわれており、正常の肝小葉が偽の小葉に変化するということを含意している。この肝硬変に至る経時的変化を古くから「小葉の改築過程」と呼んでおり、この形態発生を明らかにするのが病理形態学の役割である。私共は血管構築に注目して、組織再構成法による3次元的観察を通してこの問題にアプローチしてきたので、その一端を紹介する。2次元で6角形の図で表される正常小葉構造は、3次元的には凡そ1mm3内外の実質の塊で、血管構築的には末梢門脈枝がその表面に位置して、面状流フロントを形成するという小葉の血管性骨格を形成している。中心静脈はこの塊の中央部に位置する。小葉の改築過程にある慢性ウイルス性肝炎では門脈域の炎症の持続と線維化と共に、門脈枝の傷害と消失が齎される。このため門脈枝に裏打ちされていた小葉構造は徐々に破綻に向かうことになる。門脈域や中心静脈を捲き込む線維性架橋はこの構造の歪みを表している。肝硬変になると線維性隔壁内に門脈、動脈、肝静脈の複雑な血管走行が出現する一方で、再生結節内では1ないし数個の門脈枝が単純に展開するという血管構築に変化する。換言すれば、肝細胞再生は残存門脈枝に依存しているという事を示唆している。関連してNASHについても触れる予定である。


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