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病理診断業務における結核の危険性と対策

堤   寛

藤田保健衛生大学医学部病理学


 剖検時に初めて感染性結核症の存在に気づかれる症例はいまだ少なくない。術中迅速診断や気管支擦過細胞標本にも結核のリクスがある。事実、病理関係者の肺結核症罹患率は著しく高い。業務中に空気中に飛散する生きた結核菌に暴露される機会が多いためである。結核菌は10の1乗レベルの菌数の吸引で半数の人を発症させる感染力の強い細菌である。業務に伴って結核菌大量暴露の危険が高い場合、BCG接種の効果は期待できない。結核症業務感染を未然に防ぐために、結核病変の肉眼診断能力がポイントであり、結核菌暴露の疑いのある場合の迅速な届け出、クォンティフェロン検査の実施が重要となる。病理関係者は、結核菌の感染力の強さ、消毒剤に対する抵抗性や空気感染による感染経路を熟知しなければならない。剖検室やクリオスタットの結核菌に対する感染防御体制は十分だろうか。厳しい医療経済の中、不採算部門に属する病理部門の環境改善に正論で立ち向かいたい。活動性結核症に対する剖検20箇条を以下に紹介する。
    カルテやX線写真の剖検室への持ち込み禁止
    ツ反陰性者は剖検禁止(あるいは気づいた時点で速やかに執刀を交代)
    見学者の立ち入り禁止(あるいは直ちに退場)
    解剖衣はディスポ製品が原則
    長時間着用可能なディスポ呼吸器保護器具(ハイラック350、興研)の着用
    解剖作業はできる限り解剖台上で実施
    摘出肺にホルマリンを経気管支注入
    病変の切開・スライス作製は最小限に
    病変部の新鮮凍結切片作製は厳禁
    骨結核や粟粒結核では、ストライカーにビニール袋をかぶせて骨片飛散を防止
    臓器の写真撮影は十分なホルマリン固定後
    剖検記載用紙が血液・体液で汚染された場合、新たな用紙に再記述(無理な場合、汚染部を次亜塩素酸消毒)
    使用器具類は次亜塩素酸液で消毒(可能な限り、ディスポーザブル器具を使用)
    剖検終了時の遺体運搬用ストレッチャーの搬入は、床の洗浄・消毒後
    剖検終了後、剖検者と立合者は必ずシャワーと洗髪
    使用後のディスポ用品は専用容器に収納し、シール後に焼却
    剖検終了後、十分な換気が重要(換気口のHEPAフィルターをチェック)
    剖検終了後、必要なら接触者検診
    院内感染防止対策に還元するため、剖検報告はなるべく早く作成
    結核症の肉眼診断能力を高めるふだんの努力が重要


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