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結核につよくなろう
-結核菌の細菌学から結核の感染管理まで-

小栗豊子

亀田総合病院 臨床検査部


 臨床検査室における業室感染で最も多いのは結核,次がB型肝炎であり,これらの2種で業室感染全体の約77%を占めるという報告がある.これは1979年~1988年の調査結果であり,感染に対する防護設備等が不十分であった頃のことであるが,この2つの感染症は現在でも業室感染の主位を占めていることにはかわりがない.今回のテーマは結核であるが,業室感染を防ぐためには本感染症に関する理解を深め,関心を寄せることが感染防止の第1歩となることから,以下の点について解説する.
1. 結核菌の細菌学
 結核菌(Mycobacterium tuberculosis)は抗酸菌の1種であり,酸やアルカリに抵抗性である.100℃,5分の加熱では死滅せず,乾燥状態では3か月以上生存し,乾燥した喀痰では6~8カ月生存するといわれている.また,逆性石鹸やグルコン酸クロルヘキシジンなど一部の消毒薬には効果を示さない.
2.結核発症のメカニズムと疫学
 空気感染により肺に到達した菌は初期変化群を起こす.初感染に引き続き発症する一次結核症と,初感染から一定期間経過後に発症する二次型肺結核症があり,後者が多い.結核の症状:①無症状のこともある.②全身症状:発熱,寝汗,全身倦怠感,易疲労感,体重減少,食欲不振,不快感,衰弱感,③呼吸器症状:咳嗽,喀痰,血痰,喀血,胸痛,呼吸困難,④肺外結核―侵される臓器によりその症状をきたす.このような非特異的な症状の組合せが結核を示唆する.我が国の結核の特徴は高齢者に多いことであり,この原因は過去に感染していた結核菌を原因とするものが多いといわれている.
3.結核の検査
 ①塗抹検査,②培養・同定検査,③薬剤感受性検査(多剤耐性結核菌:MDRTB, 超多剤耐性結核菌:XDRTB),④核酸(遺伝子)検査:偽陽性に注意が必要で,臨床所見やX線所見などを統合して慎重に判断する.⑤クォンティフェロン(QFT)とツベルクリン反応(ツ反):ツ反にはBCGなどの非特異的なものが含まれる.QFTは5歳以下の小児では有用性が低い.
4.感染防止対策
 ①標準予防策と感染経路別予防策,②作業環境管理,③個人の感染防止
 業室感染防止には個人の各種防護の遵守が大切であるが,環境や設備の充実も欠かせない.自身と周囲の人の咳,微熱などの症状に注意し,早期診断に努める.不慣れな作業,無関心,不摂生な生活は感染を助長する.定期的な注意の喚起も必要である.


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