■ プログラム

HOME > 例会抄録 > 第79回病理技術研究会 > 慈恵医大病院病理部における環境改善

慈恵医大病院病理部における環境改善

梅澤 敬


【緒言】
Formaldehyde(以下:FA)が特定化学物質障害予防規則(以下:特化則)の特別管理物質に改正され、平成21年3月より規制強化が本格化する。特化則改正のうち最も新規な規制項目は以下の二つである。第一は、特化則第5条によりFAのガスが発散する屋内作業場に対しては、発散源を密閉する設備、局所排気装置又はプッシュプル型換気装置を設けること。第二は、特化則第36条により作業環境測定士による作業環境測定を6ヶ月に1回、定期に行い評価及び結果は30年保存(管理濃度0.1ppm)する、である。我々は、これらに対応した環境改善をコンセプトに、他の多岐に渡る規制項目及び作業性を考慮しながら環境改善を行った。当院の病院病理部は2007年9月より移転計画の最中にあり、極めて短期間であったが大学側からは病理関係者の健康障害に理解を得、特化則及び有機溶剤中毒予防規則(以下:有機則)に沿った検査室を構築するため、工学的方法による大幅な環境改善を行った。2008年10月からの新しい検査室使用経験から、環境改善の前後の比較と今後の取り組みや課題について報告する。

【改善方法】
特化則第5条に従い、①設計は各作業場を密閉、②有害ガスの発散源は興研プッシュプル型換気装置8台(PS-01:2台,MS-01:1台,MU-01:4台,HD-01:1台)、局所排気装置としてはオリエンタルの囲い式フード7台(1台はドラフトチャンバー)にて、バイオハザード対策は日立安全キャビネット2台(ClassⅡA/B)を導入した。他に、囲い式フード付固定槽とFA希釈混合分注装置(白井松)を取り入れた。密閉した作業場は、①FA発散源の切り出し室と臨床検体処理室(固定槽付)の2室、②ETP及び廃液缶など有機溶剤使用室、③バイオハザードの術中迅速と細胞診検体処理室、各々を壁で区画し室内を陰圧に保ち有害ガスの汚染区域を集中化した。更に作業者の安全を確保するためプッシュプル型換気装置と囲い式フードを発散源ごとに設置した。プッシュプル型換気装置8台は、切り出し台、臓器水洗槽、染色系列や薬品調合等、常時作業を行う場所に設置し、机やシンクは作業性を損なわず有害ガスを有効に換気できるようプッシュプル型換気装置に合わせて設計した。囲い式フード8台は、有害ガスや熱を発散する大型機器(自動染色装置・ETP)を覆った。H-E染色とパパニコロウ染色は、染色~封入までを自動化し発散する有害ガスは囲い式フードで囲った。使用量の多い第二種有機溶剤(キシレン及びメタノール)の廃液缶についても有機溶剤専用室に集中化した。

【まとめ】
環境改善後は、各有害ガスの発散する作業場を壁で区切ることにより、有害物質の大量漏洩の際にも汚染拡大の回避に寄与した。また、FA使用室、有機溶剤(廃液含む)、バイオハザードの作業場を区画することにより汚染区域を限定し、検査室を清潔に保持することが可能になった。壁はガラスを使用し圧迫感を回避し、隣の作業状態を常に確認できる利点も生まれた。ホルマリン固定槽は、ホルマリン希釈混合分注装置との連動により固定槽での作業や薬液交換の一部を自動化し、10m先の剖検室へホルマリンを圧送するシステムは業務改善となった。プッシュプル型換気装置及び局所排気装置の導入により、検査室内は無臭となり工学的対策は十分な威力を発揮した。プッシュプル型換気装置は、作業性を損なわず高濃度の発散源をそのまま換気し、発散源の移動(捕捉点)にも対応可能、低エネルギー性等、の利点があり病理検査室に適合した換気装置であった。環境改善後は、徹底した作業管理と独自の労働衛生教育が必要である。作業者と周囲の者が相互に協力し合い、快適な職場環境の維持向上と自主的活動を積極的に行う責任者の選出が必要である。作業管理は、人の管理でこれまで行ってきた作業方法や手順を修正し、環境に合わせる取り組みと意識改革、及び柔軟性が必要である。


例会抄録一覧へ戻る