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新規開発前処理溶液を用いた抗原賦活処理時の脱パラフィン同時処理の検討

鳥巣 加恵(ダコ・ジャパン株式会社 プロダクト・プランニング部)


【目的】現在,病理検査では多くの検体がホルマリン固定パラフィン包埋切片であり,染色実施時には脱パラフィンの工程が必要とされている.一般的にはキシレンなどの有機溶剤を用いた脱パラフィンが行われているが,有機溶剤の大量使用は人体への有害な影響が知られていることや,廃液処理にも費用がかかる点などが問題となっている.また,組織中のタンパク抗原を検出する免疫組織化学染色においては,ホルマリン架橋による抗原マスキングが問題となっており,その改善方法として熱による抗原賦活処理が広く用いられている.今回,我々は免疫組織化学染色での熱による抗原賦活処理時に,新規開発された前処理溶液(以下3-in-1緩衝液)と専用の温浴処理機器を用いることにより,脱パラフィン,親水化,抗原賦活の同時処理が可能となったので報告する。

【材料および方法】検討には各種ホルマリン固定パラフィン包埋切片を用いて,3-in-1緩衝液を用いた脱パラフィン,親水化,抗原賦活の同時処理(以下3-in-1処理)と従来法を比較した.抗原賦活処理液としては,従来法では10mMクエン酸緩衝液, pH6.0(以下CB),Target Retrieval Solution, pH9(以下TRS-9)を用い,3-in-1処理にはpH6.1の3-in-1緩衝液,Low pHおよびpH9.0の3-in-1緩衝液,High pHを用いた.抗原賦活機器としては,安定した加熱機能を持つ温浴処理機器PT Link(Dako)を使用した.あらかじめ65℃に加温した抗原賦活処理液の中に切片を浸漬して加温を開始し,抗原賦活処理液が97℃まで到達後,20分間の熱処理を行った.その後,自動免疫染色装置を用い,ポリマー法による検出にて免疫染色を行った.

【結果】3-in-1緩衝液 Low pHおよびHigh pHによる3-in-1処理で脱パラフィンを行った標本では,処理終了直後はスライドガラス上にわずかなパラフィンの残存を認めたが,切片上には目視ではパラフィンの残存は確認されず,自動免疫染色装置での染色中も試薬の伸展などに問題は認められなかった.熱による抗原賦活処理が推奨されている抗体のうち,20抗体について染色性比較を行った結果,いずれの抗体も良好な染色性を示し,従来法(有機溶剤で脱パラフィン・親水化後にCBおよびTRS-9での熱処理を実施)とほぼ同等の陽性反応が得られた.また,形態の保持やヘマトキシリンの核への染色性などについても差は認められなかった.今回の検討では,3-in-1緩衝液 Low pHおよびHigh pHを用いた3-in-1処理で従来法と同等の染色性が得られ,抗原賦活処理と同時に脱パラフィンが実施できることによる染色時間の短縮や,有害物質への曝露の回避などが利点であると思われた.


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