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細胞診―症例に学ぶ―

伊藤 仁

東海大学医学部付属病院 病理検査技術科


 細胞診の領域は広く,様々な臓器から材料が提出され,腫瘍を含む多種多様な病変がその対象となる.それらの病変は発生頻度が高いものから稀なものまでさまざまであり,さらには,男性に多い腫瘍,女性に多い腫瘍,若年者に多い腫瘍,高齢者に多い腫瘍,好発部位など病変や腫瘍により異なる.細胞診はこれらの臨床病理学的な背景を念頭に置きながら鏡検し,多くの細胞学的な情報,1)背景(壊死,嚢胞,炎症など),2)結合性,3)核所見(大きさ,大小不同,数,染色性,核形,核縁,核小体,クロマチンの性状),4)核分裂像の数,異常核分裂(多極分裂),5)細胞質所見(大きさ,色調,形状,性状:顆粒状・泡沫状・空胞状・粘液・層状・厚み,色素),6)N/C比,7)細胞膜や細胞境界,8)細胞集塊の所見(構造異型,配列の規則性,シート状,重積性,組織構築:浸潤性配列・腺管状・乳頭状,核の向き,血管随伴,炎症性細胞を内包),9)構成する細胞の種類や単調性,さらにそれら全体の出現パターンなどを総合的に判断し,診断される.しかしながら,性別,年齢,発生部位的に稀なケースや非定型的な細胞像や組織像を呈する症例に遭遇し,診断に苦慮する場合も少なくない.また,施設によりあるいは個人により経験し得る症例には限りがあり,症例的には典型例であっても診断が困難となる場合もある.経験値の違いにより,知識レベルや上述の細胞所見の優先順なども異なり,それが判定の違いにもつながる.一方,現在では,様々な場面で細胞標本やcell block標本を対象とした免疫細胞化学が応用されるようになり,精度の高い細胞診の補助的手段として重要な役割を果たしている.
 今回,症例を通じて学んだ,典型的な症例や比較的稀な症例,腫瘍の発生頻度としては稀ではないが非定型的な症例など,実際に経験した細胞診症例について可能な限り供覧し,多種多様な細胞所見をどう捉えるか,なにを優先するか,どのような組織像を推測するか,などの細胞の見方を中心に,免疫細胞化学,セルブロックの応用や方法などを含めて解説したい.


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