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カンボジアにおける病理支援について

藤田則子

国立国際医療研究センター 国際医療協力局


 カンボジアは継続した経済成長の影響を受け、近年生活習慣病・がんが増加していますが、1970年代の内戦・知識人の虐殺による保健医療人材枯渇の影響は現在にまで及びます。がん対策の基本となる病理診断ですが、人口約1500万人の国に病理検査室4病院、病理医師4人、病理検査技師15名程度という状態でした(2015年時点)。カンボジアと日本の産婦人科学会は2015年から子宮頸がん対策(検診・早期治療)のための人材育成事業を開始しました。ここまで人材が少ないと子宮頸がん検診は細胞診ではなく、安価となったHPVテストにより実施・展開の方向です。一方で発見したがんの診断治療にむけて、2017年からは病理人材育成と病理検査システム整備事業を平行して行っています。
 日本臨床細胞学会、日本病理学会、日本産科婦人科学会の協力を得ながら、複数施設の日本人の病理医と病理技師がチームを組んで、技術支援を続けています。医師育成は、病理学教室は国立一大学のみ。病理検査の需要の高まりに応じて2015年から病理専門医コースが開始、2018年一期生5名が卒業しました。臨床検査技師育成校はあるものの、病理検査を教えられる教員がいないため科目には含まれず、病理検査室に配属された新人検査技師は数少ない病理医と先輩技師やボランティアで支援する外国人病理医(フランス、ドイツ、日本)から見様見真似で病理検体の処理と標本作成を習得するという状況でした。
 日本人技師チームは、3病院の技師たちを対象に、基礎技術(固定・包埋・薄切・染色)、検査手順の標準化、SOP作成、検査室管理(労務環境、試薬調達)など、あるべき姿を日本で見せて、カンボジアでそれを実践できるように指導しました。日本から寄付された技師用顕微鏡で自ら作成した標本を自己評価するようになり、技師たちが集まる勉強会も始まりました。
 近年限られた医療資源を病理遠隔診断(テレパソロジー)で活用していますが、そのためには遠隔診断可能な質の高い標本を作製できる技師とそれを可能にする検査室管理が重要です。カンボジア保健省は地方公立病院での病理検査室開設も検討し始めていますが、これから必要なのは病理検査技師の育成であり、継続した支援を行っていけたらと思います。


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