仙台赤十字病医誌　Vol.32, No.1, 51-56, 2023

症例報告

局所切除術を行った直腸肛門部悪性黒色腫の1例

仙台赤十字病院　外科

小林　照忠　　佐藤　　純　　金子　直征
佐藤龍一郎　　角川陽一郎　　舟山　裕士

A Case of Anorectal Malignant Melanoma Treated with Local Excision

Department of Surgery, Japanese Red Cross Sendai Hospital

Terutada KOBAYASHI, Jun SATO, Naoyuki KANEKO, Ryuichiro SATO, Yoichiro KAKUGAWA and Yuji FUNAYAMA

要旨

症例は75歳，男性．肛門痛と出血を主訴に近医を受診し，当科へ紹介された．肛門周囲皮膚から肛門管内に及ぶ鶏卵大の隆起性腫瘍を認め，生検で悪性黒色腫と診断された．術前検査では左鼠径リンパ節転移以外に転移は認めず，原発巣に対する局所切除術と左鼠径リンパ節摘出術を行った．病理組織検査では，腫瘍の深達度は固有筋層までで，脈管侵襲なく切除断端への腫瘍浸潤も認めなかった．左鼠径リンパ節に悪性黒色腫の転移を認めた．術後に真菌血症から多臓器不全，真菌性眼内炎を合併した．術後3か月で多発肺転移が顕在化してニボルマブ治療を行ったが進行し，緩和ケアへ移行した．術後10か月目に局所再発が出現したものの疼痛や通過障害等の症状なく経過し，手術から1年後に死亡した．直腸肛門部悪性黒色腫は予後不良で，標準的な治療法は確立されていないが，侵襲の小さな局所切除術も治療選択肢の一つになると考えられた．

Key words: 肛門部悪性黒色腫，鼠径リンパ節転移，局所切除術，ニボルマブ