仙台赤十字病医誌 Vol.32, No.1, 1, 2023
巻頭言
これからの医学論文とChatGPT
仙台赤十字病院院長
舟山 裕士
以前,医局時代に学会発表の後は論文を書くようにと上司にいわれていたのですが,診療に忙殺されてなかなか書けなかったものでした.そんななか,「君の論文をみんなが待っているよ」というひとことが背中を押してくれたことがありました.自分1人のために書く論文ならいつでもいいと思っていましたが,少しでも他人のお役に立つのであればモティベーションはあがります.案外,そのような意識の切り替えで変わることができると思います.
日本人にとっての外国語である英語で論文を書くという作業ははっきりいってハードルが高いことは否定できません.翻訳ソフトや英文校正などは利用したことはありますが,やはり英文としての,あるいは論文としてのQualityには問題があって,結局は自分で書いた方がまだましと感じることが多かったと感じています.また,校正でのやりとりに時間がかかることもストレスです.さらに専門領域に特化した論文校正に対応できていない業者も多いのも問題でした.結局,いまでも論文の作成には膨大な時間がかかり,臨床現場で患者のことを気にしながら論文を作成することは多くの医師にとっては悩ましい問題であることに変わりはありません.
英文誌の査読委員を数年間担当した経験があります.着眼点が新鮮に感じた論文もあり勉強になることもありましたが,中国やインドからの論文には論文の体裁をなしていないモノもあり,日本人が論文作成に対して持っている心構えとはだいぶ違うなという印象でした.論文のある部分がコピペではないかとか,二重投稿が指摘されたものなど編集委員会で問題となり,論文の盗用を検索するサイトなどを知ったのもちょうどそのころでした.論文作成にあたっては関連論文は十分に検討し引用するなど論理構成に気を使うわけですが,引用の仕方によっては,コピペととられる場合もあるので,査読する側としても気を使わざるを得ません.現在は,質量ともに日本からの科学論文の発信が中国に圧倒されて久しいのですが,われわれはもっと自信を持って論文発表をしていくべきだと感じました.
最近,AI技術を用いたChatGPTで論文を作成することができるようになっているようで,教育界では物議を醸しております.確かにAIに論文を書かせるのは論外という意見もあると思いますが,一般臨床医にとって,論文を作成する負担を軽減する目的で利用するという考えも一理あるのではと私は思っております.個人情報やキモとなるデータをのぞいて入力するなどのガードは最低限必要と思います.インターネット上でやりとりされるうちに,同じ内容の論文が知らないうちに他人の名前でパブリッシュされるなどの盗用が起こる可能性もあるからです.また,AIが作成した文書を検知するソフトも開発されているという話も聞きます.
AIの問題とは離れますが,論文投稿について,艮陵同窓会誌2023年号に笹野公伸名誉教授が,出版社の営業面での問題などや論文投稿のウラオモテについて興味深い経験を書かれているので,参考までに一読されることをお勧めします.いずれ近いうちに,執筆者と全く同じ知識,文章力,癖をもつAIが論文を書くようになるかもしれません.その時,論文の共著者にAIも名を連ねることになるのでしょうか.しかし,求められるのは執筆者がもつオリジナリティ,経験,洞察力であることは間違いありませんし,変わることはないと確信してよいと思います.