第四十六回北日本放射線腫瘍学研究会記録 2. 主題: 『遠隔放射線治療支援の現状と展望』

 

3) 遠隔放射線治療の現状
東北大学・放射線治療科
武 田 賢・小 川 芳 弘
有 賀 久 哲・坂谷内 徹
藤 本 圭 介・奈良崎 覚太朗
神 宮 啓 一・山 田 章 吾
山形大学・放射線治療科
根 本 建 二
東北大学・保健学科
高 井 良 尋・仲 田 栄 子
当院の遠隔放射線治療について
 宮城県では,2006年6月の時点で放射線治療が可能な施設は12施設であるが,放射線治療認定医師数は6名である。更に,その内,放射線治療専門の常勤医師が居る施設は7施設のみである。その他の施設は,東北大からの週1,2日の出張で放射線治療を維持しているのが現状である。それらの内で,遠隔放射線医療を施行している2施設について報告する。
 1施設目は気仙沼市立病院であるが,同病院は宮城県気仙沼市に在る病床数451床の基幹病院である(仙台市より車で2時間半強かかる)。同院では,週1日の出張による診察と治療計画,及び遠隔放射線治療による診療を行っている。Fig.1に示すが,同院と東北大学にそれぞれ治療計画装置を設置


Fig 1. Connections in the remote radiotherapy planning system

し,各々がasymmetric digital subscriber line (ADSL)で接続されている。ビームデータは,各々の計画装置にインストールされている。治療計画迄の流れをFig.2に示す。気仙沼市立病院出張時,提出された放射線治療計画書を元に患者の診察と治療に関する説明を行う。その後,治療計画CTが撮像され,同データを元に東北大学病院に帰院した医師が治療計画を行う。その際,照射開始日や照射方法,注意事項を照射指示書に記載の上,気仙沼市立病院の放射線治療担当技師宛にfax送信する。それらを元に実際の照射が施行される流れとなっている。Table1に遠隔放射線治療を行った件数を示すが,同件数が年々増加していることが分かる。
 2施設目である東北労災病院は,仙台市中心部に在る病床数562床の癌診療拠点病院である。同院では,週2日の出張による診察と治療計画,及び遠隔放射線治療による診療を行っている。Fig. 3, 4に示す様に,東北大学病院と東北労災病院の治療計画装置はNTT東日本のBフレッツの光ファイバー回線で接続されている。尚,情報の安全性確保の為,両者共,VPN (virtual private network)で接


Fig 2. 治療計画迄の流れ

Table 1. 計画件数と内訳
Lung
Esophagus
Prostate
Head
& neck
Brain
Rectum
Bone
meta
Others
Total
H15
2
2
2
1
2
0
1
3
13
H16
4
14
3
2
3
4
15
10
55
H17
5
10
1
1
3
1
13
7
41
H18
13
1
3
4
1
3
6
2
33
Total
24
27
9
8
9
8
35
22
142
H15: 9月から12月迄,H18: 1月から5月迄


Fig 3.


Fig 4.

続が行われている。基幹施設である東北大学病院で治療計画装置にloginする際に,遠隔施設である東北労災病院のharddiskを読みに行く(remote disk mount方式)様,選択し,計画programを起動させる。計画を終了したら,計画装置よりlogoffして完了となる。同方式では,基幹施設の計画装置に遠隔施設のビームデータを入力する必要が無く,また,FTP (file transfer protocol)等による計画データ転送の必要も無い。治療計画迄の流れをFig.5に示す。提出された放射線治療計画書を元に,出張医師が患者の診察と治療に関する説明を行う。その後治療計画CTが撮像され,同データを元に東北大学病院に帰院した医師が治療計画を行う。同計画を元に実際の照射が施行される。Table


Fig 5. 治療計画迄の流れ

Table 2. 計画件数と内訳
Lung
Esophagus
Prostate
Head
& neck
Brain
Rectum
Bone
meta
Others
Total
H17
1
1
2
2
0
0
1
2
9
H18
3
2
2
0
0
0
1
0
8
Total
4
3
4
2
0
0
2
2
17
H18: 1月から5月迄


2に同施設にて遠隔放射線治療を行った件数を示す。こちらは開始して2年目だが,件数は増加傾向にある。
 以上,2施設の例を挙げたが,遠隔放射線治療のメリットとして,以下の2点が考えられる。
 第一に,出張病院での治療計画の時間を節約し,患者の診察や治療に関する説明に時間を割くことが可能である。
 第二に,限られた放射線治療医師でカバー出来る放射線治療施設の増加が見込めることである。
 今後の課題及び留意点としては,以下が挙げられる。
 1. 診療情報送信時等の個人情報の管理
 2. 放射線治療依頼書や照射録等の正確な情報伝達
 3. 遠隔放射線治療が発達しても,患者の診察や治療に関する説明等の重要性は不変であること
 4. 実働時間に見合った診療報酬の評価
 以上,当院で行っている遠隔放射線治療の現状について報告した。