宇宙航空環境医学 Vol. 62, No. 1, 43 2025

一般演題IV

6. 卒後教育における宇宙医学の役割:心理的安全性と多職種連携の視点から

中村 枝利香1,3,中村 俊一郎1,長田 久夫2,3

慶應義塾大学医学部 小児科1,千葉大学大学院 生殖医学2,ファミール産院きみつ3

The Role of Space Medicine in Postgraduate Education:Perspectives on Psychological Safety and Interprofessional Education

Erika Nakamura 1,3, Shunichiro Nakamura 1, Hisao Osada 2,3

1 Keio University Department of Pediatrics
2 Chiba University Hospital Reproductive Medicine
3 Famile Maternal Clinic Kimitsu

【目的】宇宙医学は,極限環境における医療の知識と技術を学ぶ学問であり,その特性から多職種連携が重要視される。本研究では,卒後教育において宇宙医学が心理的安全性を高め,多職種連携を促進する上での役割を評価することを目的とする。また,日本を含む世界各国の宇宙医学教育の現状を比較し,その課題と今後の展望について考察する。
 【方法】日本における宇宙医学教育の現状を調査し,さらにアメリカ,ヨーロッパなど各国における宇宙医学を活用した多職種連携教育プログラムの普及状況を比較検討した。これには,近年注目されているオンライン教育の活用や,異なる職種間での協力を強化するプログラムの役割も含まれる。また,筆者が取り組んだ関東郊外の産院における宇宙医学教育の導入効果を分析した。対象は産院スタッフ43人で,希望者に対して宇宙医学をテーマにした教育ビデオをオンラインで提供した。その後,学習意欲や教育の満足度に関するアンケート調査を行い,院内コミュニケーションの量や質への影響を評価した。具体的には,院長との面談回数,勉強会や地球貢献型ボランティアの参加率,医療の質の変化を教育の前後で比較した。
 【結果】日本では宇宙医学教育が一部の専門職に限定されており,卒後教育においてもその対象は狭い。筆者が実践した産院では,医師・看護師・助産師のみならず,看護補助,調理師や医療事務を含む全職種の計31人が参加し,教育を導入した結果,院長との面談回数やオンライン教育の希望者数,ボランティアへの参加率が増加した。これにより,心理的安全性が向上し,チーム医療の質の改善も明らかになった。
 【考察】宇宙医学の教育が心理的安全性を高めた理由として,宇宙という極限環境での協力とコミュニケーションの重要性が強調され,参加者が日常業務でも同様の協力関係を意識するようになったと考えられた。また,全職種が平等に学ぶ機会を持ったことで,職場内での相互理解が深まり,発言しやすい環境作りへ寄与した可能性があった。各国においても,宇宙医学教育はまだ限定的な普及にとどまっており,より広範囲の医療従事者に展開することが重要な課題である。
 【結論】宇宙医学は卒後教育において心理的安全性と多職種連携を強化する重要な役割を果たす事ができ,その効果を最大限に発揮するには教育対象の拡大と普及が求められる。今後は,各国でのオンライン教育や多職種連携プログラムの推進により,宇宙医学が生涯教育の一環としてさらに広く普及していくことが期待される。