宇宙航空環境医学 Vol. 62, No. 1, 41 2025

一般演題IV

4. 宇宙環境に適した歯科治療術式(印象採得法)の検討

大黒 英莉1,近藤 尚知1,2,3,吉田 幸弘2,3,佐川 敦志4,高藤 恭子1,深澤 翔太5,前田 初彦2,3,6

1愛知学院大学歯学部冠橋義歯・口腔インプラント学講座
2愛知学院大学大学院歯学研究科未来口腔医療センター
3日本宇宙歯学研究会
4医療法人吉田歯科医院
5岩手医科大学歯学部歯科補綴学講座
6愛知学院大学歯学部口腔病理学・歯科法医学講座

Study of dental treatment procedures (impression taking methods) suitable for the space environment

Eri Daikoku 1, Hisatomo Kondo 1,2,3, Yukihiro Yoshida 2,3, Atsushi Sagawa 4, Kyoko Takafuji 1, Shota Fukazawa 5,
Hatsuhiko Maeda 2,3,6

1 Department of Fixed Prosthodontics and Oral Implantology, School of Dentistry, Aichi Gakuin University
2 Center for Future Oral Medicine, Graduate School of Dentistry, Aichi Gakuin University
3 Japan Society for Space Dentistry
4 Yoshida Dental Clinic
5 Department of Prosthodontics, School of Dentistry, Iwate Medical University
6 Department of Oral Pathology and Forensic Dentistry, School of Dentistry, Aichi Gakuin University

【背景】歯科治療に用いられるアルジネート印象材は,粉末と水を練和して使用するため,水の使用に制約が生じる宇宙空間ではその使用は困難となる。シリコンゴム印象材は水を使用せずに印象採得が可能であるが,次の術式となる石膏模型の製作の際には,水と石膏粉末を練る必要があり,やはり,水の使用が障壁となる可能性がある。一方,近年普及しつつある口腔内スキャナーを用いた光学印象採得は,カメラによる連続撮影画像をつなぎ合わせて3次元的画像構築を行うシステムで,従来の印象採得とは一線を画し,印象材も石膏も水も必要としない画期的なシステムであり,宇宙空間での歯科治療実現に重要な役割を果たすことが予想される。
 【目的】現在,口腔内スキャナーによる光学印象採得法は,国内外において普及しつつあるが,従来の印象採得法と同等の精度を有するか否かについての比較検討が必要とされている。また,多くの機種が開発・提供されるようになったことで,各機種間の精度を比較・評価する必要もある。本研究の目的は,口腔内スキャナーを用いた光学印象採得がどの程度の精度を有するか,従来の印象採得法と比較検討することにある。
 【材料と方法】下顎顎歯模型の臼歯相当部に,インプラント体を4本埋入後,ボールアバットメントを装着し,本研究の基準模型とした。接触式三次元座標測定機による三次元形状計測を行い,各インプラント体間距離の基準値とした。次に,口腔内スキャナーを用いて基準模型の三次元形状データを採得し,得られたデータを立体画像解析用ソフトウェアを用いて,精確性(真度,精度)を計測・評価した。統計分析は,Student t-testを用い,有意水準は5%とした。
 【結果と考察】距離の測定誤差は,短い距離の印象では,真度,精度ともに有意な差は認められなかった。すなわち2〜3歯程度の少数歯欠損範囲においては,口腔内スキャナーによる光学印象法の精確性は従来法と同等か,従来法よりも精度が高い傾向にあるという結果が得られた。
 【結論】印象採得後の補綴装置製作の方法については,多くの検討課題があると考えられる。しかしながら,宇宙空間で歯科治療を行うことを想定した際に,課題となる印象採得に関しては,口腔内スキャナーを使用した光学印象法を適用することで解決できることが示唆された。