宇宙航空環境医学 Vol. 62, No. 1, 38 2025

一般演題IV

1. バレーボール選手と健常者における中心血液量減少時の脳循環および呼吸循環の動的応答

フィーリー 真利奈1, 伊藤 剛1,嶋田 愛1,澤井 亨2,仲田 秀臣1,2,大槻 伸吾1,2,宮本 忠吉1,2

1大阪産業大学大学院 人間環境学研究科
2大阪産業大学 スポーツ健康学部

Dynamic Responses of Cerebral and Respiratory Systems to Central Blood Volume Reduction

Marina Feeley 1, Go Ito 1, Ai Shimada 1, Toru Sawai 2, Hideomi Nakata 1,2, Shingo Otsuki 1,2, Tadayoshi Miyamoto 1,2

1 Graduate School of Human Environment, Osaka Sangyo University, Osaka, Japan
2 Faculty of Sport and Health Sciences, Osaka Sangyo University, Japan

宇宙飛行や航空環境における重力変化は,人体の生理機能に大きな影響を及ぼす。中心血液量(CBV)の変動に対する適応は,宇宙飛行士やパイロットの健康と安全性にとって極めて重要であり,圧受容器反射はこの適応において重要な役割を果たす[Newman DG 1998]。しかし,ヒトにおける圧受容器反射と呼吸循環調節の関係性,特に急激な重力変化に対する動的応答は十分に解明されていない。先行研究では,地上での模擬実験として下半身陰圧負荷(LBNP)装置を用い,CBV減少の影響を調査してきた[Miyamoto 2014]。我々は先行研究にてバレーボール選手では,LBNPによる中心循環血液量減少時の定常状態において,健常人よりも呼吸動作点やCBVの変動が小さいことを報告した[Feeley 2024]。この知見は,重力変化に対する生理的適応の可能性を示唆している。本研究では,健常な非アスリート(Non-Ath群)とバレーボール選手(Ath群)を対象に,LBNPによる急性CBV減少時の脳循環,心血管系,呼吸調節の動的反応を比較検討する。これにより,(1)LBNPの呼吸循環系への動的影響,(2)長期的な跳躍運動による圧受容器反射機能の適応の有無を明らかにすることを目的とする。
 対象は健康な成人男性26名(非アスリート群[Non-Ath]:n=11,年齢21.0±1.0歳;バレーボール選手群[Ath]:n=15,年齢20.2±0.4歳)とした。CBVの減少を誘発するため,前庭系への影響を排除したLBNP装置を使用した。プロトコルは2分間の−45 mmHg陰圧負荷を,適切な休憩を挟みながら3回繰り返した。呼気ガス諸量はbreath-by-breath法を使用し質量分析装置で測定し,心拍数はテレメータ心電図計を用いて1拍毎に継続的にモニタリングした。脳血流は経頭蓋超音波ドップラー法を用いて連続的に記録した。血圧は自動血圧計を使用して30秒毎に測定し,胸部コンダクタンスをCBVの指標とした。各被験者の3試行の結果を加算平均してデータ分析に用いた。
 LBNPによる胸部アドミタンスの変化率に群×時間の有意な交互作用が認められ(p<0.01),Ath群でより低い変化率を示した。両群ともに,LBNPによって分時換気量,呼気終末二酸化炭素分圧が有意に低下し(主効果 時間p<0.001),心拍数は有意に上昇した(主効果 時間p<0.001)。呼吸数については有意な群×時間の交互作用が認められた(p<0.05)。中大脳動脈平均血流速度において,群間(Non-Ath群とAth群)および経時的変化のいずれにおいても有意差は認められなかった。
 本研究により,急激なCBV減少時において,呼吸・循環調節系の協調が恒常性維持に重要な役割を果たすことが示唆された。特に,呼吸パターンの変化が脳血流維持に寄与することが明らかになった。これは呼吸ポンプ作用を介した静脈還流の促進によるものと推察される。バレーボール選手では,慢性的な圧変動ストレスへの暴露により,これらの調節機構がより効率的に作用していることが観察され,競技特性に応じた生理学的適応が認められた。これらの知見は,長期的な跳躍運動が急激な血行動態変動時の脳血流維持能力を向上させる可能性を示唆している。