宇宙航空環境医学 Vol. 62, No. 1, 34 2025

一般演題III

3. 宇宙環境における健康とQoLの維持のために:医学的指標を用いた新たな客観的QoL評価ツールの開発に向けて

竹山 英里奈1,塩屋 沙季1,廣谷 らいら1,星 昂太郎1,清水 凜佳 1,中山 陽斗1,黒住 献1
瀧澤 玲央2,3,中原 公宏1,田中 達也1,堀口 淳1,木村 真一4

1国際医療福祉大学 宇宙医学研究会
2牛久愛和総合病院
3東京慈恵会医科大学 細胞生理学講座・宇宙医学研究室
4東京理科大学 創域理工学部 電気電子情報工学科

Maintaining Health and QoL in Space Environments:Toward the Development of a New Objective QoL Assessment Tool Using Medical Indicators

Erina Takeyama 1, Saki Shioya 1, Lyra Hirotani 1, Kotaro Hoshi 1, Rinka Shimizu 1, Haruto Nakayama1,
Sasagu Kurozumi 1, Reo Takizawa 2,3, Kimihiro Nakahara 1, Tatsuya Tanaka 1, Jun Horiguchi 1, Shinichi Kimura 4

1 International University of Health and Welfare, Space Medicine Research Group
2 Ushiku Aiwa General Hospital
3 Department of Cellular Physiology & Space Medicine Laboratory, Jikei University School of Medicine
4 Faculty of Science and Technology, Department of Electrical Engineering, Tokyo University of Science

【背景】 宇宙空間での長期滞在のためには,宇宙滞在者の健康と生活の質(QoL)の維持が重要な課題である。しかし,従来のQoL評価は主観的なアンケートに依存しており,医学的な指標に基づいた総合的な評価ツールは確立されていない。本研究の目的は,宇宙環境に応用する前に,一般人におけるQoLを総合的に評価するための医学的指標に関して,先行研究においてどのような検討がなされているのか,調査をおこなった。
 【方法】 本研究では,PubMed上で現行のQoL評価の現状を調査した。「健常人における客観的で評価可能な医学的QoL指標とは何か?」というリサーチクエスチョンに基づき,関連論文を解析した。P(Population)は健常人,E(Exposure)はバイタルサインや血液検査の生理学的指標,O(Outcome)はQoLもしくは幸福度指標とした。
 【結果】 525件の関連論文を検索し,そのうち研究テーマと関連性の高い論文は124件であった。しかし,その中でバイタルサインや血液検査などの生物学的データをQoL指標として使用していた論文はわずか6件にとどまっていた。これにより,健常人における医学的指標を用いたQoL評価の研究はまだ非常に限られていることが明らかになった。さらに,これらの医学的データを体系的に組み合わせたQoL評価ツールの開発はまだ進んでいないことが確認された。
 結論:
 今後の研究では,様々な医学的データを集積し,より包括的で客観的評価可能なQoL評価手法を確立が求められる。血液中の生理的指標やバイタルサイン,主観的なアンケート結果を組み合わせ,QoLを評価可能な医学的指標を特定し,これを基にした評価ツールを作成することを目指したい。