宇宙航空環境医学 Vol. 62, No. 1, 33 2025

一般演題III

2. 宇宙戦略基金を活用した宇宙医学の産官学オープンイノベーション構想

後藤 正幸1,2

1一般社団法人Space Medical Accelerator
2聖麗メモリアル病院

Open Innovation Concept for Space Medicine Utilising the Space Strategy Fund

Masayuki Goto1,2

1General Incorporated Association Space Medical Accelerator
2Seirei Memorial Hospital

本年,企業や大学の宇宙分野の技術開発を支援する「宇宙戦略基金」が政府より発出された。内閣府・総務省・文部科学省・経済産業省がJAXAに10年間で総額1兆円規模の基金を造成し,宇宙関連市場の拡大,宇宙を利用した地球規模・社会課題解決への貢献などを目指して「輸送」「衛星等」「探査等」の3分野の支援を行う取り組みである。
 ライフサイエンス分野に関しては,「低軌道汎用実験システム開発」を目指して文部科学省より最大5年間20億円の支援が決定し,現在システム開発企業の公募が行われている。また,大学をはじめとした国内研究機関には,革新的な研究成果を生み出し宇宙市場の獲得に繋げていくための拠点となる「SX研究開発拠点」を全ての研究分野から選定し,最大8年110億円の支援を行う事も決定している。
 地球低軌道において,民間企業などによる微小重力実験の市場が世界的に拡大する中,ライフサイエンス系の宇宙実験ニーズは大きく各国の利用者獲得競争が始まっている。米国では,NASAと微小重力を生かした地上科学の進歩を目指すISS National Labより,地上の難病疾患研究への資金提供強化が決定し,がん・冠動脈疾患・神経変性疾患などの解決を目指す研究に対し最大400万ドルの資金提供が行われる。本邦の各臨床医学系学会でも,宇宙医学に対する関心は高まっており宇宙医学セッションがそれぞれに開始されている。
 現在,日本の宇宙医学研究においては,JAXAによる「きぼう」利用制度に基づいて行われていると思われるが,宇宙旅行サービス開始による宇宙飛行者に対する医学研究や,低軌道でのライフサイエンス研究において世界的競争が激化していく流れを踏まえると,今回の宇宙戦略基金をもとに,本邦でも宇宙医学において早期に産官学のオープンイノベーション体制を構築して研究開発と産業競争力を総合的に高めていくことが必要と考えられる。
 主に地上で臨床に従事する医療者で組織される当社では,本学会の先生方のご指導や宇宙実験サービス提供事業者などとの連携を通して,深宇宙探査に挑む宇宙飛行士や民間の宇宙飛行者に対する医学研究,また微小重力実験によって地上医学の進歩に繋がる研究開発が大きく発展する地球低軌道の将来像を実現したいと考えている。各臨床医学系学会やライフサイエンス分野の国内企業などに対して,宇宙実験や医学研究の現状や意義についてガイダンスを行い,戦略基金を呼び込むことでより多くの企業やライフサイエンス研究者が宇宙実験に参画し,産官学連携によって日本の宇宙医学分野の総合力を高めていくための議論を,ぜひ本学会より提起したい。