宇宙航空環境医学 Vol. 62, No. 1, 28 2025

一般演題II

3. 宇宙や地上の食体験を劇的に向上させる経皮電気刺激味覚調整装置の探索的研究

福島 大喜1,2,勝木 将人3

1株式会社UBeing
2名古屋大学
3長岡技術科学大学

Exploratory Research on a Transcutaneous Electrical Stimulation Device for Taste Modulation: Enhancing the Eating Experience in Space and on Earth

Taiki Fukushima1,2, Masahito Katsuki3

1UBeing, Inc., Nagoya 453-6111, Japan
2Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
3Physical Education and Health Center, Nagaoka University of Technology, Nagaoka 940-2137, Japan

【背景】 宇宙環境において,食事は心身の健康を保ちミッションを継続する重要な習慣である。しかし,味覚の低下や味のバリエーション不足などにより,宇宙での食事摂取量は低下することが判明している。一方,地上では塩分や糖分の過剰摂取が脳卒中,心筋梗塞,慢性腎臓病に直結する。これらは健康寿命の短縮,QOLの低下,医療費の増大を引き起こす緊急度の高い課題である。しかし,一般的に健康的な減塩食品は塩分濃度が低いため,味が損なわれて継続が困難である。経皮電気刺激味覚調整装置は,この健康と味のトレードオフを解決できる可能性がある。これは,皮膚を非侵襲的に電気刺激することで,味覚を誘発,抑制,増強するものである。したがって,味覚関連物質の濃度を物理的に変化させることなく味覚を調節し,健康的でおいしい食品を食べる手助けが可能となる。現在までに健常者での検証は行われているが,病気を有する被験者,重力変化環境,高齢者での検証は少ない。
 【方法】 2023年6月から現在まで,脳神経外科に入院した患者2例を対象とした。経皮電気刺激味覚調整装置を用い,下顎に電極を貼付し,1.0 mAの電流を流しながら,塩分濃度を推定するタスクを施行し,塩味知覚の増強の有無を調べた。倫理委員会に承認された安全基準に従い研究を実施した。
 【結果】 症例1:69歳の女性で,前交通動脈の動脈瘤によるくも膜下出血患者がコイル塞栓術を受けた。手術後42日目に経皮電気刺激味覚調整装置を使用し,塩分濃度を推定するタスクを施行したところ,塩味知覚の上昇が認められた。
 症例2:67歳の男性で,一過性脳虚血発作の患者に20日目に経皮電気刺激味覚調整装置を利用したタスクを実行した。症例1と同様に,経皮電気刺激味覚調整装置を使用し,塩味知覚の上昇が認められた。
 【考察】 健常ボランティアではなく,実際の脳神経外科患者においても経皮電気刺激味覚調整装置による塩味の知覚上昇が示唆された。本機器は,宇宙環境,減塩中の食事,味覚低下など,幅広い使用用途が検討される。今後は同一疾患の蓄積に加え,重力変化環境下,他疾患でも効果検証を行うことで,科学的な妥当性を検証していく予定である。