宇宙航空環境医学 Vol. 61, No. 1, 41, 2024
学生演題 2
B2-1. 月面レゴリスによる塵肺:宇宙探査における新たな健康リスクの評価
清水 凜佳 1,廣谷 らいら1,粕本 亜美1,中山 陽斗1,山口 修平1,星 昂太郎1,塩屋 沙季1,
清水 凜佳 1,アウレリウス セバスチャン チャンドラ1,小田 哲史1,山下 雄大1,茅原 武尊1,
アバスザテ ダニエル アリヤ1,瀧澤 玲央2,5,山添 真治2,田中 達也1,黒住 献1,
木下 翔太郎3,田島 寛之4,堀口 淳1,中原 公宏1
1国際医療福祉大学 宇宙医学研究会
2牛久愛和総合病院
3慶應義塾大学医学部ヒルズ未来予防医療・ウェルネス共同研究講座
4千葉大学大学院医学研究院 医学教育学
5東京慈恵会医科大学細胞生理学講座・宇宙医学研究室
Dust Lungs from Lunar Regolith:Assessing Emerging Health Risks in Space Exploration
Rinka Shimizu1, Raira Hirotani1, Ami Kasumoto1, Haruto Nakayama1, Shuhei Yamaguchi1, Kotaro Hoshi1,
Saki Shioya1, Aurelius Sebastian Chandra1, Satoshi Oda1, Yudai Yamashita1 ,Takeru Kayahara1,
Abbauzadeh Daniel Ariya1, Reo Takizawa2,5, Shinji Yamazoe2, Tatsuya Tanaka1, Sasagu Kurozumi1,
Shotaro Kinosita3, Hiroyuki Tajima4, Jun Horiguchi1, Kimihiro Nakahara1
1Space Medicine Research Group, School of Medicine, International University of Health and Welfare
2Ushiku Aiwa General Hospital, Department of Endovascular Therapy, Ibaraki, Japan
3Hills Joint Research Laboratory for Future Preventive Medicine and Wellness, Keio University School of Medicine
4Department of Medical Education, Chiba University School of Medicine
5Division of Aerospace Medicine, Department of Cell Physiology, The Jikei University School of Medicine
近年の宇宙探査の進展により,今後月面での活動やコミュニティが増加していくことが予想される。月面には微細な粒子状の月面の砂(レゴリス)が存在し,このレゴリスは舞い上がってもすぐには沈降せず長く空間を浮遊する。そのため,これが宇宙飛行士の角膜や呼吸器系に影響を与える可能性が指摘されており,地球上の塵肺と同様に,この病態が月の環境においても発症するリスクの評価が急務となっている。レゴリスの特性とそれによる呼吸器系への影響を検討し地球上における塵肺症と比較することは,長期的な月面活動における健康リスクを評価するために必要と思われる。今回我々は,今まで公式に発表されている論文を調査し,グループディスカッションを行うことで,レゴリスの特性とその呼吸器系への影響を検討し文献的考察を行った。レゴリスは地球の石炭粉塵とは異なる特性を持つものの,肺組織に対する塵肺同様の疾患発症リスクが示唆された。レゴリスの平均的な大きさは?65から70 μmほどで,磨耗が少なく鋭利な形状を持ち,静電気や磁気をもつ特性がある。そのため大きさからも塵肺リスクになり得る危険性があり,さらに肺胞まで到達するナノレベルの粒子の存在も示唆されている。現在の医療において塵肺の治療は対症療法となっているため,発症を防止するため粉塵吸入を最小限にすることが最重要であると考える。
月面活動における宇宙飛行士の健康保護のため,月面レゴリスに起因する塵肺リスクに対する対策や予防方法の検討が必要である。今後,月面滞在の期間や活動頻度の増加に伴い,この問題はさらに重要性を増していくと考えられる。
キーワード:宇宙医学,月面デブリス,塵肺,呼吸器,宇宙飛行士