宇宙航空環境医学 Vol. 61, No. 1, 40, 2024
学生演題 1
B1-6. 仮想現実によるヘッドアップティルトが心肺循環応答に与える影響
荒木 鞠里,田端 利久,戸倉 啓志,向井 裕紀,福家 真理那,平澤 愛,柴田 茂貴
杏林大学保健学部,産業技術総合研究所
The effects of head-up tilt simulated by virtual reality on cardiopulmonary responses
Mari Araki, Riku Tabata, Hiroshi Tokura, Mukai Yuki, Marina Fukuie, Ai Hirasawa, Shigeki Shibata
Faculty of Health Sciences, Kyorin University, The National Institute of Advanced Industrial Science and Technology
【背景】 ヘッドアップティルト(HUT)に対する視覚入力への心肺循環応答として,ドームシアターを用いた先行研究では心肺循環応答には大きな変化を認めなかった。しかしvirtual reality(VR)を用いてのHUT視覚入力に対する心肺循環応答は不明である。
【目的】 VRによるHUT視覚的入力が心肺循環応答に影響するのか検討した。
【方法】 健康成人男性12名(年齢21±1歳)を対象に,ベッド上で背臥位にてVRを装着し5分間のデータ(Baseline, BL)を測定した。その後,VR映像とともにHUTする(Real-Tilt, RT),実際にHUTはせずにVRで視覚的にHUTする(Visual-Tilt, VT),VRの映像は変化せず身体的にHUTする(Body-Tilt, BT),の3つをランダムに実施し,各条件のデータを比較した。各介入2分後の血圧及び心拍数,その後5分間の呼吸機能,自律神経活動の変化を計測した。心拍数は3点誘導心電図,血圧は上腕式血圧計を用いて測定した。自律神経活動は5分間の心拍変動に対して周波数解析を用いて評価した。呼吸機能は呼気ガス分析装置(InnoCor)を用いて測定した。
【結果】 Baselineと比較して,Real-Tilt,Body-Tiltでは心拍数は増加したが,Visual-Tiltでは心拍数が減少した(BL:72±9, RT:83±10, VT:69±10, BT:82±10 bpm, P<0.05)。Real-Tilt,Body-Tiltでは拡張期血圧と平均血圧は増加したが,Visual-Tiltでは変化がなかった。収縮期血圧は3群で変化がなかった。副交感神経活動は3群で変化がなかった。Real-Tilt,Body-Tiltでは交感神経が優位になったが,Visual-Tiltでは変化がなかった。二酸化炭素排出量(BL:0.21±0.03, RT:0.18±0.03, VT:0.19±0.03, BT:0.18±0.02 L/min, P<0.05)は3群で低下した。酸素消費量,呼吸数,分時換気量は3群で変化がなかった。Real-Tilt,Body-Tiltでは呼吸商は減少したが,Visual-Tiltでは変化がなかった。
【結論】 身体的HUTでは視覚入力の有無に関わらず心拍数が上昇したのに対して,視覚入力HUTでは心拍数の減少を認めた。拡張期血圧,平均血圧,自律神経応答,呼吸商は身体的HUTに対しては視覚入力の有無に関わらず変化したが,視覚入力HUTでは変化がなかった。本研究結果はVRによる視覚的HUTが心肺循環応答に与える影響が小さいことを示している。VRによる視覚入力に対して心拍数と二酸化炭素排出量の減少を認めたがそのメカニズムは不明であり,今後の検討課題と考える。