宇宙航空環境医学 Vol. 61, No. 1, 38, 2024
学生演題 1
B1-4. 宇宙放射線被曝量をモニタリングするための新たな検査手法について
塩屋 沙季1,廣谷 らいら1,粕本 亜美1,中山 陽斗1,山口 修平1,星 昂太郎1,清水 凜佳 1,
アウレリウス セバスチャン チャンドラ1,小田 哲史1,山下 雄大1,茅原 武尊1,
アバスザテ ダニエル アリヤ1,瀧澤 玲央2,5,山添 真治2,田中 達也1,黒住 献1,
木下 翔太郎3,田島 寛之4,堀口 淳1,中原 公宏1
1国際医療福祉大学 宇宙医学研究会
2牛久愛和総合病院
3慶應義塾大学医学部ヒルズ未来予防医療・ウェルネス共同研究講座
4千葉大学大学院医学研究院 医学教育学
5東京慈恵会医科大学細胞生理学講座・宇宙医学研究室
New inspection method for monitoring space radiation exposure
Saki Shioya1, Raira Hirotani1, Ami Kasumoto1, Haruto Nakayama1, Shuhei Yamaguchi1, Kotaro Hoshi1,
Rinka Shimizu1, Aurelius Sebastian Chandra1, Satoshi Oda1, Yudai Yamashita1 ,Takeru Kayahara1,
Abbauzadeh Daniel Ariya1, Reo Takizawa2,5, Shinji Yamazoe2, Tatsuya Tanaka1, Sasagu Kurozumi1,
Shotaro Kinosita3, Hiroyuki Tajima4, Jun Horiguchi1, Kimihiro Nakahara1
1Space Medicine Research Group, School of Medicine, International University of Health and Welfare
2Ushiku Aiwa General Hospital, Department of Endovascular Therapy, Ibaraki, Japan
3Hills Joint Research Laboratory for Future Preventive Medicine and Wellness, Keio University School of Medicine
4Department of Medical Education, Chiba University School of Medicine
5Division of Aerospace Medicine, Department of Cell Physiology, The Jikei University School of Medicine
宇宙空間における宇宙放射線被曝は,宇宙飛行士にとって大きな健康リスクの一つである。国際放射線防護委員会(ICRP)は,2013年に「宇宙飛行士の宇宙空間における放射線被曝の評価」を勧告し,対策の重要性を強調している。地上での医療現場においても医療従事者は,放射線障害のリスクを評価するために,ガラスバッチにより総放射線被曝量の測定をおこなっている。しかしながら地上での放射線被曝は,主にβ線やγ線,環境からのX線など,線エネルギー付与(LET)の低い放射線源によるものであるのに対し,宇宙空間での被曝にはLETの高い放射線源が多く含まれている。高LET放射線は相対的に生物学的影響が高いといわれており,発がんリスクを高める可能性がある。したがって,宇宙放射線による被曝の程度を正確にモニタリングできるシステムの開発が期待されている。その中の1つにリキッドバイオプシーというシステムがある。このシステムは,血液や尿などの体液をサンプルとし,人間の健康状態を評価する侵襲の少ない検査の方法である。近年,このリキッドバイオプシーを用いて,放射線被量を評価する手法が研究されており,ヒストンH2AXがリン酸化される(γH2AXを生じる)ことは,DNA損傷の鋭敏なマーカーとされており,血中のγH2AXをモニタリングすることで体内のDNA損傷を評価する新しい方法が開発されている。また,尿中のヘプシジン-2の測定はマウスにおける放射線被曝の指標となることも報告されており,今回我々は,このような宇宙放射線被曝量を比較的簡便にモニタリングできる手法に関して,今まで公式に発表されている論文を調査し,グループディスカッションを行ったので,その結果を報告する。
キーワード:宇宙医学,放射線,生体モニタリング,DNA損傷