宇宙航空環境医学 Vol. 61, No. 1, 33, 2024

一般演題 4

5. 宇宙服をアップデートする:AAGIによる巧緻動作・安全性を向上する宇宙服の未来

西田 大輔1,2,石北 直之3,4,田中 邦彦5

1東海大学医学部
2国立精神・神経医療研究センター
3国立病院機構新潟病院
4神戸大学 大学院医学研究科・医学部
5岐阜医療科学大学 大学院保健医療学研究科

The next generation Space Suits:Improving Fine Movement and Safety with Augmentative and Alternative Gesture Interface (AAGI)

Daisuke Nishida1,2, Naoyuki Ishikita3,4, Kunihiko Tanaka5

1Tokai University
2National Center of Neurology and Psychiatry
3NHO Niigata Hospital
4Kobe University
5Gifu University of Medical Science

宇宙空間における宇宙服着用時の動作には大きな技術的課題が存在する。宇宙空間は真空であり宇宙服は与圧が必要となる。地上や宇宙ステーションと同じ大気圧のままで宇宙服を着用すると,風船のように膨張し,細かな動作が非常に困難になり,宇宙服は0.3-0.4気圧まで減圧する必要がある。人体にかかる圧力を急激に下げると,体内に溶け込んでいる気体が塞栓となる減圧症となり,心臓や肺,中枢神経系等に致命的な傷害を起こすリスクが生じる。それを避けるために,12時間程度身体を低圧に順応させる時間が必要であり,実際に宇宙服を着て外に出る準備には身体的,時間的な負担がかかる。
 この課題を解決するために,我々が2010年から重度運動障害者のために研究開発してきた高精度で簡便な非接触タイプのスイッチシステム「Augmentative and Alternative Gesture Interface:AAGI」を20年以上研究されている国産の常圧宇宙服に搭載する。これにより,宇宙服に安全性と使いやすさを提供することを目指す。
 AAGI:
 高精度,簡便な非接触タイプのスイッチシステムであり,市販の3Dカメラを使用して,顔や,指先などのわずかな動きを捕捉してスイッチとして使える特許取得済みのシステムである(特許登録番号:6460862)。コア技術は独自の画像ライブラリー構築と,ハードウェアに依存しないソフトウェアシステムに基づいており,新潟県柏崎市で重度運動障害者支援の福祉用具認定を受けるなど,実績を積んでいる。
 現時点では,チームビルディングと研究資金調達を行い,宇宙服へのAAGIの搭載に向けた研究開発に着手する計画である。さらに,持続的な研究開発を推進するため,2023年11月16日に開催される内閣府主催の宇宙ビジネスアイデアコンテスト「S-Booster 2023」でファイナリストとして事業計画を発表,早期事業化を目指している。
 宇宙応用で技術を磨くことで,AAGIは重度運動障害者への普及が促進される可能性がある。さらに,普及と応用が進むことで感染制御や深海などの極地での作業支援としての展開も期待され,宇宙での技術貢献が地上への波及効果をもたらすことが期待できる。民間人も宇宙に旅行に行くことが現実的となった今,我々のプロジェクトによって宇宙空間でのスムーズな動きを実現し,船外活動の効率と安全性を向上させることで,将来の宇宙旅行へ貢献したい。