宇宙航空環境医学 Vol. 60, No. 1, 32, 2023

一般演題 2

7. 大腰筋萎縮予防に着目した運動療法の開発

田島 裕之

久留米大学病院 リハビリテーション部

Development of a new exercise treatment to prevent atrophy of the psoas muscle

Hiroshi Tajima

Division of Rehabilitation, Kurume University Hospital, Kurume, Japan

【目的】 微小重力環境は抗重力筋の筋萎縮をもたらすことがよく知られている。特に筋萎縮予防の現行のリハビリを行っても,大腰筋(Psoas muscle, PM)の筋萎縮が予防できないという報告がある。ハイブリッドトレーニングシステム(HTS)は関節モーションセンサーを用いて随意運動と神経筋電気刺激(NMES)を同期化させ,関節運動において拮抗筋を電気刺激することにより遠心性収縮を起こし,主動筋の自発的な求心性収縮に対する運動抵抗として利用する方法である。本研究の目的は,微小重力下にて筋委縮を防ぐことができないPMに着目し,HTSを用いて微小重力下でも可能な股関節屈曲伸展運動において屈曲時にのみ拮抗筋である大殿筋を電気刺激し,主動筋である大腰筋の運動抵抗とし,HTSがPMに及ぼす影響を検討することである。
 【方法】 健常な男性9名(年齢23.2±4.7歳,身長170.1±5.9 cm,体重61.6±7.0 kg)の非利き脚(9脚)をHTS群,利き脚(9脚)をコントロール(CON)群とした。運動課題は静止立位からの股関節屈曲伸展運動で,1セット10回,3回/週,6週間行った。HTS群では大殿筋に刺激電極を装着し,股関節屈曲時にのみ電気刺激を与えた。CON群は電気刺激を与えずに同じ運動を行った。トレーニング前後のPMの筋量と筋力を測定し解析した。比較はWilcoxonの符号順位検定を用いて行い,また効果量Cohen’s dを算出し検討した。
 【結果】 群内比較において,HTS群のPMの筋量は有意に増加した(pre:352.73±33.84, post:365.90±40.07 cm3)(P<0.01)。d=0.39であり効果量小であった。筋力はHTS群で有意に増加した(pre:203.89±41.98, post: 230.22± 25.67N)(P<0.05)。d=0.63と効果量中であった。CON群では筋量,筋力いずれも有意な増加は見られなかった。群間比較において,筋量はHTS群の方が増加した傾向がみられたが(p=0.0576),筋量には有意差は認めなかった。
 【考察】 HTSは長期臥床や微小重力による筋萎縮の対策として開発された。我々はこれまで肘関節や膝関節でHTSを用いた研究を行ってきたが,体幹に近い股関節に注目したのは今回が初めてである。本研究結果よりHTSを用いた運動の方がHTSを用いない自重運動よりも筋力増強や筋肥大の面で効率的であることが示され,大殿筋の電気刺激的遠心性収縮が,大腰筋の自発的求心性収縮の運動負荷となることを証明した。さらには,これまでの研究では皮膚の表面に近い筋肉を対象としてきたが,本研究で従来のNMESでは刺激できない体幹付近の深い筋肉を強化できることを明らかにした。また,HTSは小型機器で身体への装着が簡便であるため,様々な運動様式と組み合わせることでより効率的かつ効果的な運動が可能になると考えられ,ORIONのようなスペースが限られ,大型の運動機器を設置できない小型の宇宙船内でも有効な手段となりうるだろう。以上よりHTSは微小重力環境下での筋萎縮を防止するための有効な機器である可能性がある。