宇宙航空環境医学 Vol. 60, No. 1, 30, 2023
一般演題 2
5. 宇宙時代におけるバイオミメティクス技術を用いた新素材の改発研究
瀧澤 玲央2,小田 哲史1,星 昂太郎1,山下 雄大1,茅原 武尊1,アハ?スサ?テ タ?ニエル アリヤ1,
アウレリウス セバスチャン チャンドラ1,清水 凜佳1,塩屋 沙季1,山口 修平1,川原 彩文1,
黒坂 優子1,長野 友香1,村上 純一1,中村 龍太1,座間 貴大1,田島 寛之1,岡 愛子1,
黒住 献1,田中 達也1,堀口 淳1
1 国際医療福祉大学 宇宙医学研究会
2 埼玉県立循環器・呼吸器病センター 血管外科
Research on modification of new materials using biomimetics technology in the space age
Reo Takizawa 2, Tetsushi Oda 1, Kotaro Hoshi 1, Yudai Yamashita 1, Takeru Kayahara 1, Abbauzadeh Daniel Ariya 1, Aurelius Sebastian Chandra 1, Rinka Shimizu 1, Saki Shioya 1, Shuhei Yamaguchi 1, Ayami Kawahara 1, Yuuko Kurosaka 1, Yuka Nagano 1, Junichi Murakami 1, Ryuta Nakamura 1, Takao Zama 1, Hiroyuki Tajima 1, Aiko Oka 1, Sasagu Kurozumi 1 , Tatsuya Tanaka 1, Jun Horiguchi 1
1 International University of Health and Welfare, Space medicine research Group
2 Vascular Surgery, Saitama prefectural Cardiovascular and Respiratory Disease Center
【背景】 人類は感染性微生物との関係の中でペニシリンの開発から,細菌を死滅させる抗生剤の開発は著しく進歩した。一方で,サルモネラ菌やネズミチフス菌などは宇宙空間において遺伝子発現により毒性が強まることも知られている。抗生剤の使用は薬剤耐性菌の出現などの問題も生じるため近年ではより精密な抗生剤使用を求められ,安易な広域抗生剤などの使用はできない。その中で我々が着目しているのは昆虫のセミの翅の構造であるナノピラー構造である。ナノピラー構造は細かい柱状構造が六角形状に並ぶことで抗菌作用を示すとされている。しかしながら,抗菌作用を示すことは証明されているものの,人体細胞における作用などは十分に解明されているとは言えない。我々はこの様な物理構造により殺菌作用を示す素材を宇宙環境における,環境素材および医療素材としての応用を模索し研究をおこなっている。
【目的】 殺菌性を示すナノピラー素材を利用した細胞培養培地の作成を行い,細胞培養に必要とされる抗生剤を使用の有無に分けて細胞培養を行う。ヒト細胞に対する侵襲性を確認する。
【方法】 高さ220 nm のシリコン樹脂製ナノピラー構造のシートを展開したシャーレにてヒト胃癌細胞 (NUGC3)を培養・発育させたのち細胞数カウントにより細胞発育に影響を与えるかを確認した。樹脂製ピラーシートは抗菌作用の確認も含め培養液に抗生剤を付加したもの付加しないものに分けて各々NUGC細胞を培養し,比較対象とするナノピラーを有さないシートを展開した群と比較検証を行った。
【結果・考察】培養NUGC3細胞は同一株を培養した後,各Q群,R群,S群に分割後,培養過程は概ね順調であり5日後に3群とも予定通りの生存細胞確認工程へ移行した。各群の生存細胞数は下記の表に記す通りであった。表1)各群の生存細胞数はQ群で平均35.6±24.1個(12-84),R群で平均27.5±22.8個(9-81),S群で平均19.4±7.43個(5-29)であった。Q群とR群をS群と比較しχ2乗検定を行ったところQ群とR群ともにS群とくらべ細胞生存に関しては有意差を認めなかった。(Q群:P = 0.266/R群 P = 0.500)
短期間の培養に関しては抗生剤の有無に関わらず,感染を伴わずNUGC細胞培養を行うのは可能であり対象シート群と比較しても細胞増殖に関しての障害性は認めなかった。
今後は正常細胞培養および微小重力再現環境下における細菌培養検証などを行い,ナノピラー構造素材の宇宙展開・医療資源展開などを模索していく予定である。