3.　水素ガス吸入による過重力（+5 Gz）負荷後血中乳酸値の抑制|Inhalation of hydrogen gas decrease blood lactate level after hypergravity（+5 Gz） loading in a rat model

一般演題 2

3.　水素ガス吸入による過重力（+5 Gz）負荷後血中乳酸値の抑制

藤田　真敬¹，晝間　恵²，茂木　美千子¹，田中　美寿々¹，河村　優輔³，白石　安永¹，溝端　裕亮^2,4，
丸山　聡⁴

¹防衛医科大学校　防衛医学研究センター　特殊環境衛生研究部門
²防衛医科大学校　生理学講座
³防衛医科大学校　分子生体制御学講座
⁴航空自衛隊航空開発実験集団　航空医学実験隊

Inhalation of hydrogen gas decrease blood lactate level after hypergravity（+5 Gz） loading in a rat model

Masanori Fujita ¹, Megumi Tandai-Hiruma ², Michiko Motegi ¹, Misuzu Tanaka ¹, Yusuke Kawamura ³, Yasunaga Shiraishi ¹, Yusuke Mizohata ^2,4, Satoshi Maruyama ⁴

¹ Division of Environmental Medicine, National Defense Medical College Research Institute, National Defense Medical College, Japan
² Department of Physiology, National Defense Medical College, Japan
³ Department of Integrative Physiology and Bio-Nano Medicine, National Defense Medical College, Japan
⁴ Aeromedical Laboratory, Air Development and Test Command, Japan Air Self-Defense Force

【背景と目的】　戦闘機や曲芸飛行のパイロットは旋回時に頭から足方向への過重力（+Gz）を受ける。ラット過重力負荷モデルを用いて疲労の指標とされる血中乳酸値を計測し，水素ガス（1.3%水素，21%酸素，77.7%窒素）吸入による抑制の可否を検証した。
　【方法】　雄性SDラット（10週齢，体重300～350 g，日本SLC），12匹にセボフルラン吸入麻酔（導入5% 4分，維持3%），自発呼吸下に大腿動脈及び頚動脈にカテーテルを留置した。3種混合麻酔（メデトミジン0.15 mg/kg+ミタゾラム2 mg/kg+ブトルファノール2.5 mg/kg腹腔注）に移行後，ラットを2群（6匹／群）に分け，水素群は1.3%水素ガスを50分吸入，空気群は室内空気を吸入させ，3種混合麻酔腹腔注60分後+5 Gz，2分負荷した。過重力負荷装置（アーム長1.15 m，トミー精工，バイオリサーチセンター，ジャパンカスタム製）を用いた。採血は頚動脈カテーテル留置後，+5 Gz，2分負荷前，負荷解除後1，2，3，5，10分に行い，ポータブル血液分析器（i-STAT，Abbott，USA）とカートリッジ（CG4+）により血中乳酸値を計測した。実験室の気温は25±2℃であった。
　【結果】　血中乳酸値（水素群 vs 空気群，mmol/L）はカテーテル留置後（0.85±0.30 vs 1.10±0.85），空気または水素ガス吸入後（0.32±0.00 vs 0.58±0.30），負荷解除後1分（3.57±0.93 vs 5.15±0.59, P<0.01）， 2分（3.29±1.06 vs 4.65±0.43, P<0.05），3分（2.88±0.99 vs 4.05±0.53， P<0.05），5分（2.14±0.86 vs 3.04±0.73），10分（1.23±0.60 vs 1.65±0.48）となった。
　血圧（水素群 vs空気群，mmHg）は，負荷前（130±11.4 vs 132±12.4），負荷1分（0.45±7.98 vs －1.7±8.2），負荷2分（0.78±7.0 vs －7.7±9.9），負荷解除1分（174±12.1 vs 184±1.1），負荷解除2分（177±11.1 vs 186±7.9），負荷解除3分（173±11.0 vs 181±10.3）と両群に有意差を認めなかった。
　心拍数（水素群 vs空気群，bpm）は負荷前（261±10.1 vs 256±8.9），負荷1分（325±42.5 vs 305±21.9），負荷2分（331±49 vs 267±92.5），負荷解除1分（249±54.5 vs 254±54.4），負荷解除2分（246±47.1 vs 235±27.4），負荷解除3分（237±49 vs 232±28.3）と両群に有意差を認めなかった。
　【考察】　過重力負荷前の50分の1.3%水素ガス吸入により過重力負荷直後の血中乳酸値の有意な抑制効果を認めた。戦闘機や曲芸飛行のパイロットの旋回時に応用すれば，より長い時間の過重力負荷に耐え得る可能性がある。過重力負荷に伴う疲労や身体負荷の軽減に水素ガス吸入の有効性が示唆された。

　本研究は，防衛省防衛医学基盤研究A 特殊環境衛生分野特殊環境における耐性スクリーニングと対策に関する研究（令和2～4年度　代表　藤田真敬）の補助を受け，防衛医科大学校動物実験倫理委員会の承認（No. 22051）により実施した。