宇宙航空環境医学 Vol. 60, No. 1, 22, 2023

一般演題 1

4. 内耳周辺磁気刺激による重心動揺への影響

田中 邦彦1,杉浦 明弘2

1岐阜医療科学大学 大学院保健医療学研究科
2岐阜医療科学大学 保健科学部 放射線技術学科

Effects for posturography using magnetic vestibular stimulation

Kunihiko Tanaka 1, Akihiro Sugiura 2

1 Graduate School of Health and Medicine, Gifu University of Medical Science
2 Department of Radiotechnology, Gifu University of Medical Science

ある刺激に対する生体内の反応において,微弱なノイズを加えると,刺激の特性を維持したまま閾値を超える確率が増大し,反応性が向上する「確率共振現象」が見られることがある。これまでに,微弱な内耳前庭系電気刺激を行うと,平衡感覚機能が向上し,立位での重心動揺が抑制されるという現象が知られている。
 一方,医療現場において画像診断に用いられるMRI装置で頭部検査を行う際,往々にして眼振が生じ,患者がめまいを訴えることがある。強磁場で平衡感覚が混乱するのであれば,比較的微弱な磁気刺激で確率共振現象が生じるのではないかと考えられた。そこで今回,現行のMRIの磁場よりも比較的低い磁気刺激の,重心動揺に対する影響を検討した。
 21歳〜54歳の健康被検者8名をラバーマット状に閉眼で直立させ,4〜5回の予備計測で手技に順応させたのち,1分間の重心動揺測定を行った。その際,耳介後部に0.4Tの磁石もしくは同大のアルミ盤を貼付した。得られた重心動揺軌跡から平均軌跡長,外周面積の算出とX・Y方向それぞれの周波数成分解析(低周波・中周波・高周波領域の積分値)を行った。
 磁気刺激時には対象時に比較して平均軌跡長および外周面積いずれも有意に減少した。また耳石器機能を反映しているといわれる,X軸方向,Y軸方向それぞれの中周波数領域の積分値が有意に低下した。
 また,これまでに内耳前庭系は起立時の血圧調節に重要な影響を与えていることを報告してきた。連続的に血圧を計測しつつ同様な刺激を1例について与えたところ,起立時の血圧が刺激なしに比較して顕著に上昇した。
 これらの結果から,内耳周辺への磁気刺激は平衡感覚・姿勢調節機能を改善させることが示唆された。