宇宙航空環境医学 Vol. 60, No. 1, 20, 2023

一般演題 1

2.　高強度頭低位負荷の開始直後の脳血流と脳内酸素飽和度の経時変化

加藤　智一¹，小西　透^1,2，小川　洋二郎¹，岩�ｱ　賢一¹

¹日本大学医学部　社会医学系衛生学分野
²防衛省　航空自衛隊　航空幕僚監部

Time-course changes in cerebral blood flow and oxygen saturation during steep head-down tilt

Tomokazu Kato ¹, Toru Konishi ^1,2, Yojiro Ogawa ¹, Ken-ichi Iwasaki ¹

¹ Division of Hygiene, Department of Social Medicine, Nihon University School of Medicine
² Air Staff Office, Japan Air Self-Defense Force

【背景】　宇宙滞在や頭低位を伴うロボット支援下腹腔鏡手術において，頭側に体液分布が偏位した状態での脳血流や脳内酸素飽和度の詳細な動態を明らかにすることは頭部臓器障害の発生予防の観点から重要である。しかしながら，傾斜角度の大きい高強度頭低位負荷の開始直後の脳血流と脳内酸素飽和度を同時に測定した研究は行われていない。
　【目的】　傾斜角度−30度の高強度頭低位負荷の開始直後からの脳血流と脳内酸素飽和度の経時変化について検討した。
　【方法】　健康被験者9名を対象に，水平位（0度）の電動ティルトベッド上で，経頭蓋ドプラ血流計および近赤外分光計（INVOS）を装着し，中大脳動脈の脳血流速度波形および前頭部の局所脳内酸素飽和度を連続記録した。1）ベッドの傾斜開始直前（水平位）の負荷前区間（5秒間），2）ベッドの傾斜角度が水平位から−30度の頭低位になる移行区間（25秒間），3）ベッドの傾斜角度が-30度に達した直後からの負荷中区間（60秒間）において，それぞれ5秒毎の区間平均値を算出し，平均脳血流速度および局所脳内酸素飽和度の経時変化を評価した。
　結果:平均脳血流速度は，全区間で有意な変化を認めなかった（P=0.332，ANOVA）。一方，局所脳内酸素飽和度は負荷前区間と比較し，負荷中10-15秒?55-60秒区間で有意に増加した （P<0.001，ANOVA）。
　結論:高強度頭低位の負荷直後においても脳血流は維持されていた。一方で，脳内酸素飽和度は傾斜角度が−30度に達してから10-15秒後で有意に増加し，それ以降，増加した状態が持続するという経時変化を示した。本研究結果から，傾斜角度−30度の高強度頭低位負荷の開始直後から脳血流と脳内酸素飽和度は異なった経時変化を示すことが示唆された。（本研究は，日本大学医学部創立50周年記念研究奨励金（共同研究）の助成を受けて行われた。）