宇宙航空環境医学 Vol. 53, No. 4, 116, 2016

宇宙航空環境医学会若手の会

「宇宙旅行 〜私も宇宙に行けますか?」(公開講座)

3. 民間宇宙旅行マーケットの可能性と諸課題

浅川 恵司

株式会社 クラブツーリズム・スペースツアーズ 代表取締役社長

Potentiality and Challenges of Commercial Space Travel

Keiji Asakawa

President of Club Tourism Space Tours Inc.

「民間宇宙旅行」は「民間人が宇宙に行く」と定義すると既に実現しているが,「民間機で宇宙に行く」と定義するとまだ歴史上実現されていない。その両方が現実となるとまさに「宇宙旅行の時代」が到来したと言える。
 最も実現が近い宇宙旅行は,高度100キロに到達し4〜5分宇宙空間に滞在する準軌道宇宙飛行(サブオービタル宇宙飛行)と呼ばれる形態のものである。現在,アメリカで主に3社の有力な民間企業が中心となり開発競争を行っている。世界を代表する大手航空機メーカーも将来のマーケットへの参入を検討しており,このような動きを見ると,遅かれ早かれ一般の人が宇宙に観光で行く道は確実に開かれていくものと考えられる。
 当社は2014年,JAXAとの共同研究として「民間宇宙旅行の市場調査」を実施した。無作為に選んだ1,700名の当社会員を対象に質問票を郵送し541名より回答を得たが,「準軌道宇宙旅行に行きたいかどうか」という設問に対し, 5.7%が「ぜひ行きたい」,50.1%が「条件によっては行きたい」と答えている。(主な条件とは「安全性の確認」が68.4%,価格の低下が63.4%など)また,価格については,「いくら以上を高いと思うか」,「いくら以下を安いと思うか」という設問の回答結果から,一人当たり600万円程度が適正価格であるとの分析が導き出されている。
 以上の結果から,現在準軌道宇宙旅行は日本円換算で1,500万〜2,500万程度であるが,安全性が確認された上で価格も低下すれば巨大なマーケットが出現する可能性があることが予測できる。(この市場調査の結果については,当社のホームページで自由にダウンロードできるように公開しているので参照願いたい。)
 さて,宇宙旅行の実現のため解決すべき課題は大きくは4点である。それは,宇宙船開発とその安全性確保,関連法規の整備,投資家の存在,打ち上げを行う宇宙港の建設である。
 どれもハードルは決して低くないが,「安全性の確保」が当然ながら第1に優先されるべき課題である。安全性とは,宇宙船の安全な運航だけではなく,搭乗客の健康面での安全性という側面も重要である。屈強な身体を持ち長期に渡る訓練を受けた職業宇宙飛行士ではない一般の民間人が,宇宙に行って健康上何事もなく無事に帰還できる事前訓練や健康基準は何かなどを導き出す医学的データの集積や研究成果が今後間違いなく求められていくと思われる。
 当社が日本地区公式代理店を務めるヴァージンギャラクティック社の顧客をみてみると,日本人としては20名の予約者がいるが,平均年齢は60歳を超えており,シニア層故に一部健康面で不安を抱えている方もいる。宇宙旅行の参加費は当面は高額で推移し,冨はどうしてもシニア層に偏りがちなためシニア層の参加が多くなるが,準軌道宇宙飛行がこのような層に与える影響についての研究成果や基準づくりが国内外で期待されるところである。