宇宙航空環境医学 Vol. 52, No. 1, 9-11, 2015

解説記事

太陽が地球に与える磁場の影響

菊地 宏和

菊地クリニック

Plasma Astrophysics and Space Medicine

Hirokazu Kikuchi

Kikuchi Clinic

(Received:28 September, 2013 Accepted:22 October, 2014)

オーロラ
地球は巨大な磁石であり,南極がN極,北極がS極で,磁石のN極はS極(北)に引っ張られて北を指す。17世紀には,既に大航海で羅針盤として進路指示に用いられている。磁力線は地球を包むように南極から北極に向かい,太陽から太陽風というプラズマの流れが衝突すると太陽側の磁場は少し圧縮され,逆に太陽と反対側は磁力線が引き延ばされる。地球にも磁場があるため,太陽風プラズマが直接,地球の大気に衝突することはなく,地球磁気圏とは,このように太陽風から地球を守っている領域をいう2,9
太陽風の磁場の向きが南向きのときは,地球の磁場(北向き)と磁気リコネクションを起こし,磁力線に乗った太陽風プラズマが地球磁気圏に侵入できるようになる。そのことにより,太陽と反対側の磁気圏尾部が引き延ばされてエネルギーが溜まり,逆向きの磁力線が遭遇して磁気リコネクションが起こる。太陽フレアと同様に爆発的にエネルギーが解放され加速されたプラズマ粒子が地球の北極・南極上空で大気と衝突し,オーロラが発生する1,2,9
NASAでは,火星有人探査にこのオーロラ応用作用のプラズマ・ロケットエンジンを作り,飛行速度を現在の4倍として地球・火星間の宇宙船飛行時間を短縮しようと研究が始まったばかりであるが,完成は今世紀末のこととされている。現在,地球から火星への宇宙船の所要飛行日数は,片道だけで半年,往復では一年以上の日数がかかるため,新型宇宙飛行船のロケットエンジンは,オーロラ現象の応用の人工プラズマパワーが必要と考案されたものであるが,はたして実現可能であるか否か疑問視されている。私は実現可能性65%と予測し,軍配を可能性に上げる10,11
人類の科学進展史を交通機関で見ると,紀元前より産業革命が出現する18世紀までは,一定の進歩速度であり,これは馬の能力に依存し,発達グラフ上では直線的な進歩線を描く。産業革命後は科学工学の進歩に依存し,放物線を描き,紀元前より1900年間の交通進歩を僅か半世紀で占め,ライト兄弟が初飛行したのは100年前,月面に人類が到達したのは半世紀前で科学工学は目を回すほどの急速進歩を示したが,「20世紀の忘れ物」ともいわれる西洋科学の特徴は「物質を二分し,物と心を分離し物事だけの進歩を計った結果で,今日の如く「人間の叡智が人類を滅ぼす」というところまで来ていて,天文学者たちは「地球は,今後も天文学的には何十億年と不変であるが,人間の科学工学進展のために200〜300年後には人類が生存不可の天体となってしまう」と嘆いている。叡智を持った人間ならば,この点を留意し,豊かな繁栄を今後も続けることを願って止まない。
我々は,オーロラというと北極の方しか知らないが,北極にオーロラが現れるとき,南極にもオーロラが現れ,北極と南極が同時に光っているのが見える。
地球のオーロラは発生すると段々と北極点に近付き,この現象はエネルギーを放出する場所が次第に地球磁気圏の太陽から離れた方向(磁気圏尾部)に移っていくからでオーロラが発生するときには大電流が流れ,落雷と同様に被害が生じる1

航空機と人工衛星の被害
25年前の航空機行方不明事件が有名で,離陸後,空港管制官から電波が届かなくなり,飛行機が行方不明状態になり大騒ぎになった。実際にはこの9時間前に太陽で大フレアが起き,X線が電離層を異常に過熱して,電離層の電波に対する屈折率が変化して,それまで届いていた電波が届かなくなり,電波は電離層で反射して伝わるので非常に危険な状態になる。
人工衛星「あすか」は,高度400 kmという略真空中を飛行しているが,略真空といってもわずかな大気が存在しているので急激に大気が膨張すると抵抗が4倍になる。飛行機は自由に飛行していた状態より急ブレーキが掛かった条件になり,あらゆる方向に行ってしまう。人工衛星は太陽電池でエネルギー補給をしているので,太陽に向いていた電池が別方向に向いてしまうと,エネルギーの補給が突然できなくなって動かなくなり,加えて抵抗が大きくなるため,衛星寿命が短くなり,わずか数か月で落下してしまう。



伝書鳩や人体への影響
伝書鳩にも影響が出るのは,鳩は地磁気で方向を感知して正しい方向に飛ぶことができるが,磁気嵐が発生すると磁場の方向が揺らぐため,間違った方向に飛行してしまう。人間にも影響があり,人体の血液中には大量の鉄分(ヘモグロビン)が含まれ,鉄は当然磁気に反応するため,それにより病状が変化し,昔からフレアがあると病人の容態が悪くなるといわれている。
Yomiuri on lineは,2008年8月26日付で,最近,ドイツとチェコの研究チームが発表した牛や鹿が食事中や休憩時は北や南を向いているのは太陽の方向ではなく,北や南の地磁気の方向で大型動物でも地磁気を感知し,磁気嵐が起こると交通事故が多発し,病人の容態が悪くなるという事実を報告した5
生命誕生から宇宙の形成理論まで,太陽の爆発が今日の地球に多大な影響を及ぼしていることは学者でなくとも一般市民ですら知っている事実であり,爆発現象を精緻に解明することで生命誕生や地球進化の謎に迫り,さらには恒星の形成を解き明かす上でのヒントになる。
太陽が爆発だらけである事実は過去においても地球は多々影響を受けており,地球の年齢は46億年だから何度か過去に超巨大なフレアによる被害を受け,極端に言えば恐竜は6,500万年前,隕石の衝突により絶滅した一因とする太陽の爆発が大量の放射線を噴出したことが原因であるとも考えられている。
太陽ばかりでなく,恒星や惑星の形成理論は,近年,観測技術の飛躍的な進歩により,太陽系以外の惑星が発見されることで大きく前進している。
最初に原始惑星系円盤が形成され,中心に恒星ができ,次第に惑星が形成されていくという重力を中心にした形成モデルで太陽爆発時,強烈な磁場が恒星や惑星形成に影響を及ぼしていることが分かってきている。加えて磁場の視点から宇宙を見ると太陽の爆発は全て物を飲み込むブラックホールの周辺で発生している爆発現象と類似性がある。
このように現在,広範囲に関心を集める太陽であるが,ガリレオ以来,現代の天文学は「より遠くの星」,「より正確に星に関して知りたい」という考えが主流である。近年では「生命とは何か」,「地球はどのように誕生し,人間は如何にして存在してきたか」といった地球外生命の研究3,4,6,7もテーマとなり注目を集め,太陽を研究することで地球や宇宙の成り立ちを考える方向性が模索され,太陽研究の新しい道が拓かれた。
日本は世界でもトップレベルの太陽観測衛星と技術を持っており,身近で膨大なパワーの源泉としての太陽の研究が宇宙神秘を解き明かして次世代への橋渡しとなることは確実である。

未来を視る眼・宇宙生存学
太陽系の生命の過去を学び,太陽系外の惑星の生命を学ぶことは人類の未来が見え,人類の祖先は原始太陽の爆発の嵐の中をいかに生き延びたか,あるいは太陽系外の生命は,中心星の超巨大なフレアの嵐の中を生き延びてきたか。それを研究し,生命の進化の秘密を解明することで,人類の未来も見えてくると考えられる5
その一方で,我々は今,宇宙に進出していこうとしているが,爆発だらけの危険な宇宙に安全に進出していくことが可能であろうか。これは敷衍すれば,宇宙の中で「生命および人間」が生存可能な条件は何かという問題を探求する学問が今後の宇宙科学であり,それは「宇宙生存学」といえるものである。宇宙生物学・宇宙医学から宇宙生存学へ,加えて天文学のフロンティアを追及していくと,宇宙生存学にたどり着く。
最近の研究で明らかになったことは,太陽の構造や仕組み,驚くべき爆発だらけの正体,他の恒星や銀河,宇宙の進化との関係,地球・生命・人類との関係などで分かったことは,太陽は決して宇宙の中で特殊な存在ではなく,太陽を調べると天体・宇宙の普遍的な進化の法則が見えてきて,太陽と地球の関係を見ると宇宙天気予報は元より地球生命の進化まで見えてくる学問で太陽とその他の星は一見無関係に見えるが深い関係が隠れている。それを解き明かすことによって我々の視野が広がり,将来の地球環境の保存,エネルギー問題の解決,加えて宇宙への安全な進出の確保,そして人類の未来も開けていくと考えられる。人間はそのような広い視野で「未来を視る眼」を持たなければならない。特に未来を担う青少年に「未来を視る眼」を持ってほしいと願っている9
本文を書くに当たり,下記の著書を参考にし,一部を引用した。


1)秋岡眞樹:太陽からの光と風─意外と知らない?太陽と地球の関係─,技術評論社,東京,2007.
2)福島 肇:電磁気学のABC,講談社,東京,2007.
3)井尻憲一:宇宙の生物学,朝倉書店,東京,2001.
4)小林憲正:アストロバイオロジー─宇宙が語る〈生命の起源〉─,岩波書店,東京,2008.
5)前田 坦:生物は磁気を感じるか─磁気生物学への招待─,講談社,東京,1985.
6)長沼 毅:生命の星・エウロバ,日本放送出版協会,東京,2004.
7)大島泰郎:宇宙生物学とET探査,朝日新聞出版,東京,1994.
8)Peter Ulmschneider:宇宙生物学入門─惑星・生命・文明の起源─,シュプリンガー・ジャパン,東京,2008.
9)柴田一成:太陽の科学─磁場から宇宙の謎に迫る─,日本放送出版協会,東京,2010.
10)竹内 薫:2035年 火星地球化計画,角川学芸出版,東京,2011.
11)渡部潤一:夢の宇宙開拓全史,スコラマガジン,東京,2011.


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