宇宙航空環境医学 Vol. 51, No. 4, 78, 2014
一般演題
22．航空自衛隊·航空機操縦者（パイロット）の服薬動向—40歳·50歳の比較—
大類 伸浩1，久田 哲也2，金澤 冨美子1，高澤 千智1，溝端 裕亮1，桒田 成雄1，藤田 真敬1
1航空自衛隊 航空医学実験隊
2所沢第一病院
A clinical medication review for lifestyle related diseases:A comparison of Japan Air Self-Defense Force Pilots aged 40 and 50 years old
Nobuhiro Ohrui1, Tetsuya Hisada2, Fumiko Kanazawa1, Chisato Takazawa1, Yusuke Mizohata1, Naruo Kuwada1, Masanori Fujita1
1Aeromedical Laboratory, Japan Air Self-Defense Force
2Tokorozawa Daiichi Hospital
【目的】 航空環境は，低圧·低酸素，加速度および3次元空間等の特殊環境であり，航空機操縦者の生活習慣病に対して内服治療を行う際には，加速度に対する耐G性や3次元空間での空間識や認知機能等への影響，航空環境での生体適応能力への影響などの安全性を考慮する必要がある。
生活習慣病は，40歳以降に加齢に伴い増加する傾向があり，今回我々は，航空自衛隊パイロットにおいて40歳と50歳時の高血圧，脂質異常症および高尿酸血症の治療薬の内服状況を調査した。さらに，米国空軍との使用薬剤の比較を行った。
【方法】 平成5年1月～平成22年7月の間に40歳時と50歳時の航空身体検査を受験した航空自衛隊·航空機操縦者176名を対象に40歳時と50歳時の高血圧，高脂血症及び高尿酸血症の内服状況を調査した。
【結果と考察】 （40歳と50歳時の内服状況の比較）40歳時の内服者は11名（6.3%）であり，高血圧1，高脂血症2，高尿酸血症8であった。50歳時には36名（20.5%）が内服しており，高血圧8，高脂血症9，高尿酸血症19と増加した。全体の内服率は3.3倍，疾患別では高血圧8倍，高脂血症4.5倍，高尿酸血症2.4倍であった。これらの結果は，航空機操縦者の40歳以降での生活習慣病の増加を示している。今後，パイロットに対する生活習慣の指導のさらなる強化により疾患を減らしていく努力が必要かもしれない。
（米国空軍との使用薬剤の比較）航空自衛隊では，カルシウム拮抗薬，アンジオテンシンII受容体拮抗薬およびアンジオテンシン変換酵素阻害薬のいずれか単剤を内服する場合は，1か月の飛行停止で副作用発現のないことを経過観察した上で飛行復帰となるケースが多い。米空軍では，カルシウム拮抗薬が血管拡張作用による耐G性低下の可能性が考慮され，戦闘機（高Gz負荷）以外の搭乗に制限されている。これまでカルシウム拮抗薬による耐G性低下を示す客観的な報告はないものの，米空軍の現状も鑑みて，内服開始に際しては，慎重な観察が必要である。
航空自衛隊では，痛風および尿路結石例は飛行停止となる。さらに無症候性高尿酸血症については，血清尿酸値10.0 mg/dl以上で飛行停止となっている。また，血清尿酸値が8.0 mg/dl以上で，生活習慣の改善で低下しない場合は，内服治療の対象となっている。高尿酸血症の治療は，ベンズブロマロンまたはアロプリノールを処方し，場合により尿路結石の予防のため，尿アルカリ化薬・?ｹ用している。米空軍においては，無痛性高尿酸血症については，内服治療は行われていないようである。米空軍では，痛風発作を引き起こした場合に内服治療の対象となり，主に，アロプリノールが内服薬として用いられている。
【結論】 40歳から50歳に大きな服薬動向の変化があり，健康管理上の意義が改めて認識された。また航空医学的な観点からの内服治療において，米空軍と航空自衛隊では異なる点があることから，今後このような違いに対してどのように対応していくべきかについての議論が必要である。