宇宙航空環境医学 Vol. 48, No. 4, 120, 2011

宇宙航空医学認定医セミナー

「東日本大震災における航空医療の展開」

4. 航空機動衛生隊と機動衛生ユニット

野上 弥志郎

防衛省 航空自衛隊 航空医学実験隊

Aero-Medical Evacuation Squadron and Kido-Eisei Unit, flying intensive care unit

Yashiro Nogami

Aero-medical Laboratory, Japan Air Self-Defense Force

航空機動衛生隊は東日本大震災発災直後より出動待機中,本震災で受傷した患者を機動衛生ユニット(以下,ユニット)で航空搬送した。航空機動衛生隊および機動衛生ユニットの概要と今回の初出動について解説する。
 【概要】 航空機動衛生隊は,平成18年10月1日愛知県航空自衛隊小牧基地に新編された防衛大臣直轄の機上医療専門部隊であり,有事,災害時等において発生した重症傷病者を航空搬送により,発生現場近傍飛行場から最終医療機関近傍飛行場まで後送する間の機上医療を実施することを主任務としている。主要装備品であるユニットは,C-130H輸送機に2個,次期輸送機に3個ユニットの搭載可能で,1個ユニットあたり最大3名の重症患者の搬送ができる。1個機動衛生チーム(医官,看護師,救急救命士,管理要員)が1個ユニットを運用する。現在,2個ユニット,2個機動衛生チームで出動待機体制をとっている。ユニットは,防音性,電磁遮蔽性に優れ,ユニット内では飛行中でも肉声による会話が可能であり,照明装置により病室と同等の明るさであり,機体電源を商用電気に変換する周波数変換装置が装備され,ほとんどの医療機器がバッテリーを使わず使用可能である。さらに,航空機からの電源供給がない場合に備えて約70分間電源供給可能な無停電電源装置(UPS)を有している。酸素ボンベは,合計6本を装備しており,3名の重症患者に対して同時に3時間以上の酸素投与が可能である。
 【初出動】 平成23年4月21日,ユニットを用いた初の航空患者搬送を実施した。患者は左上腕骨骨折観血的整復術後で心不全のある90歳代女性。発災直後に受傷,岩手県から北海道に広域医療搬送され,手術を受け,病状が安定したため,北海道から岩手県へ搬送が依頼された。千歳空港での申し受け時,心房細動頻拍と血圧低下が認められ,抗不整脈薬投与し,心拍,血圧安定したため,千歳空港離陸。機上では,特に問題なく経過し,いわて花巻空港に着陸。搬送先医師に申し送り,無事任務を完了した。