宇宙航空環境医学 Vol. 46, No. 4, 92, 2009
一般演題
20. 肺気量の体位依存性に関する予備的研究―心機能との関係―
中村 文香,伊藤 康宏,山﨑 将生,長岡 俊治
藤田保健衛生大学・医療科学部・生理学
A preliminary study on the posture dependency of pulmonary and heart functions
Ayaka Nakamura, Yasuhiro Itoh, Masao Yamasaki, Shunji Nagaoka
Dept. of Physiol., Fujita Health University School of Health Sciences
止への取り組みとして近年,姿勢や体位の改善が注目されている。体位による肺気量の変化は重力に影響されることがよく知られているが,肺気量に影響を与える因子として循環血液量の上位体幹への移動が考えられる。本研究の目的は体傾斜角変化により生じる安静時肺気量分画とりわけ予備呼気量,機能的残気量の変化に及ぼす循環血液量の変化を心エコー像から推測し,体位変化と肺機能変化から,睡眠時の無呼吸を予防するための基礎データを得ることにある。
【方法】 測定は立位,30°Head up tilt(HUT),7°Headdown tilt(HDT),30°HDT にておこなった。体傾斜には各角度のベッドを用意した。肺気量の測定はベネディクト・ロス型スパイロメータを用い,ヘリウムガス希釈法を用いた閉鎖回路法により機能的残気量(FRC),予備呼気量(ERV),残気量(RV)を求めた。また,気流阻止法(CHEST SPIROMETER HI-801)およびニューモタコグラフを用いて呼吸抵抗(Zrs),吸気速度,吸気圧を実測した。また,肺コンプライアンスおよびヤング率を計算値から推測した。心機能の測定には超音波測定装置HITACHIEUB5500 を用い, 左心機能( 左室駆出率EF, 左室径LVD,心拍出量CO,心係数CI)はB モード長軸像およびM モード心エコー図から,下大静脈径(IVC)は心窩部縦走査によりそれぞれ測定した。
【結果】 立位からの体傾斜に伴い安静呼吸時(midpoint)のERV,FRC は著しく減少し,Zrs は増加した。吸気速度,吸気圧は7°HDT では立位と同等であった。肺コンプライアンスは7°HDT と30°HDT で有意に低値,ヤング率は高値であった。同時に心機能であるEF,LVD,CO,CIはいずれも増大する傾向が認められたが,大きく頭部が下がる30°HDT では減少した。IVC の径は体傾斜に伴い増大した。
【考察】 立位からの体傾斜に伴い心機能の増大は7°HDT まではスターリングの心臓の法則が相当すると考えられ,胸部体幹への還流血液量の増加が推測された。また,心機能の変化量は肺機能の変化量より小さく,体傾斜に伴う腹腔臓器の頭側変位の影響も強いことが示唆された。これらの結果から,肺コンプライアンス(L/cmH2O)低下の理由は,体傾斜角変化により体循環血が胸部体幹へ偏移したために生じた肺血流量増加,腹腔臓器の頭側変位を含む胸腔内圧の増加に伴うものと推測され,これらがERV,FRC を減少させる主な原因と思われた。このようにして生じる呼吸の抵抗(impedance)増加には,肺の圧迫に対する呼吸筋群の拮抗作用が考えられ,特に睡眠時では換気代償作用が働き換気の全仕事量は増大する。これにより背臥位睡眠時には弾性抵抗の増加(コンプライアンス低下)により吸気圧,吸気速度が増加すると考えられる。このように,覚醒時において得られた本結果から,上気道筋群の活動性が低下する睡眠時には上気道の開存性の低下をよりきたす可能性が示された。