宇宙航空環境医学 Vol. 45, No. 4, 178, 2008

機内感染症について

大越 裕文

渡航医学センター 西新橋クリニック

In-flight transmission of infectious diseases

Hirofumi Okoshi

Travel Medicine Center, Nishi-Shimbashi Clinic

【飛行中の機内感染例】
 1) インフルエンザ: 出発の遅れのため,換気システムが停止した機内に数時間いた乗客の72% が1人の患者からインフルエンザが感染した1)
 2) 重症急性呼吸器症候群(SARS): SARS流行期間中に,40フライトにSARS疑い患者が搭乗した。機内感染は5フライトで発生し,感染者数は計37人で,その殆どが患者の前後に着席者であった。感染源となったケースはいずれも有症状者であり,空港での体温チェックなどによる検疫強化後は,機内感染例は発生していない2)
 3) 麻疹: 1997年から2004年の間に,感染性を有した117名の麻疹患者が機内に搭乗し,同乗した10,000人のうち,4人が機内感染を起こした3)
 その他,結核患者が搭乗した機内で,同じコンパートメントの周囲の乗客が不顕性感染を起こした報告がある4)
 なお,インフルエンザケース以外は,機内の換気システムは通常に作動していた。
 【機内換気システム】
 機内換気システムには,感染症防御上3つの特徴がある。まず,機内の空気は約3分毎に交換されている(50% は再換気です)。次に, 機内の空気は上下に流れ,前後には流れない。さらに再換気される空気は,再び機内に入る前に高性能HEPAフィルターを通るため,ウイルスや細菌がその殆どが除去される。
 【機内での対策】
 過去の感染例からみて,通常の飛行中の機内では感染症が蔓延するリスクは小さいと考えられる。機内感染例は,主に感染者から近距離にいた乗客であり,新型インフルエンザも飛沫感染,接触感染が主たる感染経路と考えられていることから,機内では手洗い・うがいに心掛け,マスクの準備などの対策が重要である。また,搭乗前後の感染を疑わせるケースも報告されており,機内だけではなく,空港までや空港内での移動は,可能な限り人と距離を保つことも大切である。
参考文献
 1) Moser MR, et al. An outbreak of influenza aboard a commercial airline. Am J Epidemiol 1979; 110: 1-6.
 2) MMWR. 2005; 54(48): 1229-1231.
 3) Kenyon TA, et al. Transmission of multidrug resistant Mycobacterium tuberculosis during a long airplane flight. N Engl J Med 1996; 334: 933-938.
 4) WHO. Consensus document on the epidemiology of severe acute respiratory syndrome. 2003. http://www.who.int/csr/sars/en/WHOconsensus.