宇宙航空環境医学 Vol. 45, No. 4, 136, 2008

一般演題

22. 定環境下での生姜抽出物の摂取がヒトのエネルギー代謝に及ぼす影響

平柳 要,山口 喜久,夏野 豊樹

日本大学医学部社会医学系衛生学分野

Effect of Ginger on Human Energy Expenditure under a Constant Environment

Kaname Hirayanagi, Nobuhisa Yamaguchi, Toyoki Natsuno

Division of Hygiene, Department of Social Science, Nihon University School of Medicine

【はじめに】 生姜は乗り物酔い,悪阻,化学療法による吐き気などの予防に有効であることが知られている。今回は,(株)永谷園との共同研究で,生の生姜に加熱処理を施し,生姜の主成分であるジンゲロールとショウガオールの重量比を15 : 2とした生姜抽出物を摂取することによって,ヒトでのエネルギー消費量が高まるかどうかを二重盲検法によるランダム化比較試験により検討した。
 【方法】 冷え性ぎみで,生姜アレルギーのない若年健常女性19人(年齢21.2±SD1.9歳)を対象に,実験室内を温度23〜24°C,湿度30〜40% に保ち,Tシャツと短パンに準じた服装で,各自が別の日に,@ プラシーボ(澱粉),A 生姜10 g相当,B 生姜20 g相当をカプセルで摂取し,その際のエネルギー代謝に関する測定を行った。測定項目は,呼気ガス代謝モニターによるエネルギー消費量,皮膚赤外線体温計による額と手・足の指先の体表温,患者監視装置による脈拍数と収縮期・拡張期血圧である。昼食前にそれぞれの項目を測定した後,スタバ製のサンドイッチ(404 kcal)と室温の水(アドリブ)を速やかにとった後,カプセルを飲んでもらった。カプセル摂取から1時間,2時間,3時間経過時に,リクライニングチェアに座った状態で上記項目の測定を行った。
 【結果】 食事による影響を取り除いた生姜20 g相当摂取時のエネルギー消費量を,安静時に対する増加率で表すと,1時間後+10.5%,2時間後+11.6%,3時間後+8.6%と有意な増加であった。生姜10 g相当摂取時では,1時間後+7.4%,2時間後+8.2%,3時間後+6.6% で,1時間後を除いて有意であった。脈拍数は安静時(58拍/分)に比べて,サンドイッチをとっただけでも,1時間後66拍/分,2時間後62拍/分および3時間後59拍/分で有意に増加した。生姜20 g相当摂取時は,1時間後(66→68),2時間後(62→64),3時間後(59→62)で,いずれも有意に増加した。生姜10 g相当摂取時では2時間後(62→64)だけで有意に増加した。血圧と体温については,安静時,1時間後,2時間後,3時間後と,プラセーボ摂取時,生姜10 g相当摂取時,生姜20 g相当摂取時のいずれの間にも有意差を認めなかった。
 【まとめ】 本研究は,冷え性気味の女性が生姜成分(ジンゲロールよりもむしろショウガオール)を摂取することで,副腎からのカテコールアミンなどによって交感神経の働きが高まり,DIT(食事誘導性代謝)なども活発になって,エネルギー消費量が高まることを明らかにした。もちろん,熱い飲み物だけでも,30分程度は体幹部(胸腹部や腰背部)を中心に身体を温めることはできるが,生姜を加えると,それが3時間程度は持続する。本研究は,ラット同様,ヒトでも生姜摂取によってエネルギー代謝が亢進することを明らかにしたもので,生姜摂取による皮膚温や循環機能の変化については,今後の検討課題としたい。