宇宙航空環境医学 Vol. 43, No. 4, 2006

一般演題

43. 「航空身体検査におけるアレルギー性鼻炎関連特異的IgE抗体保有率の調査・研究−第二報−」

石井 彩子1,籠谷 領二1,露無 松里1,福田 佳三1,石井 正則1,津久井 一平2,福本 正勝2
原 志野2

1東京厚生年金病院 耳鼻咽喉科
2航空医学研究センター

Epidemiological investigation of specific IgEantibody related to allergis rhinitis

Ayako Ishii1, Kagoya Ryouji1, Yuyumu Matusato1, Keizou Fukuda1, Masanori Ishii1, Ippei Tukui2,Masakatu Fukumoto2, Shino Hara2

1Tokyo Kouseinenkin Hospital. Department of Otorhinolaryngology
2Aeromedical Research Center

【目的】 我々は,航空性副鼻腔炎の臨床的特徴として,鼻茸や鼻中隔湾曲症及び,アレルギー性鼻炎などの鼻腔形態の狭小化が挙げられることすでに報告している。また,本邦においてアレルギー性鼻炎の有病率は年々増加傾向であり,航空乗務員も同様の傾向と考えられるが,アレルギー性鼻炎の医療機関受診者の臨床統計は比較的多く存在するものの,その有症率や特異的IgE抗体保有率の報告は少ない。そこで,今回我々は,航空身体検査を受検した,鼻閉を主訴としない若年健康成人におけるHD,ダニ,スギの特異的IgE抗体の保有率を調査した。
 【対象と方法】 i) 平成15年から平成17年9月に航空身体検査を日本全国から受検した,19歳から24歳の原則として健康な若年成人850名(男性: 829名,女性: 21名)を対象に,CAP−RAST法にてアレルギー性鼻炎に関するHD,ダニ,スギの特異的IgE抗体の保有率を調査した。
 ii) 日本全国におけるIgR抗体保有率の地域差を調査するにあたり,日本全国を @ 北海道・東北,A 関東,B 東海・近畿・中部,C 中国・四国・九州・沖縄の4地域で大まかに分類し,各抗原別に抗体保有率を算出した。
 【結果】 i) 各抗原の抗体保有率はHD: 65.3%,ダニ69.6%,スギ59.7% といずれも約6割であり,対象が原則健康な若年成人であることを考えると,比較的高率であった。
 ii) 日本全国を @ 北海道・東北,A 関東,B 東海・近畿・中部,C 中国・四国・九州・沖縄の4地域に分類した場合,HDにおいては @ 60% A 62.8% B 64.6% C 69.6,ダニにおいては,@ 57% A 62.4 B 63.8% C 65.2%,スギにおいては @ 55% A 70.4% B 68.7% C 53.3% であった。HDとダニはいずれの地域も約6割の抗体陽性率で明らかな地域差を認めなかった。スギにおいては @北海道・東北と C中国・四国・九州・沖縄で6割を下回り,A関東と B東海・近畿・中部では約7割と若干高めの傾向ではあったが明らかな地域差は認められなかった。
 【まとめ】 i) 航空身体検査を受検した,原則として健康成人である19歳から24歳の邦人若年者においてHD,ダニ,スギのIgE抗体保有率はいずれも約6割認め,健康な若年成人としては比較的高い傾向であった。
 ii) 受験生の出身地を4地域に分けた場合,いずれも約6割の抗体陽性率を認めたが,明らかな地域差は認められなかった。スギに関しては,スギの樹生分布などが影響していると考えられた。
 iii) 今回,特異的IgE抗体陽性者の中には,アレルギー発症予備軍も含まれていると考えられ,有病率増加の観点から,継続的な疫学調査・研究が必要であると考えられた。