宇宙航空環境医学 Vol. 42, No. 4, 2005

一般演題抄録

39. 温熱刺激は損傷した骨格筋の回復を促進する

後藤 勝正1,小島  敦1,森岡 茂太1,杉浦 崇夫2,大平 充宣3,吉岡 利忠1,4

1聖マリアンナ医大生理学
2山口大学教育
3大阪大学大学院医学系研究科
4弘前学院大学

Heat-stress facilitates the recovery of injured skeletal muscles

Katsumasa Goto1, Atsushi Kojima1, Shigeta Morioka1, Takao Sugiura2, Yoshinobu Ohira3,
Toshitada Yoshioka1,4

1Department of Physiology, St. Marianna University School of Medicine
2Faculty of Education, Yamaguchi University
3Graduate School of Medicine, Osaka University
4Hirosaki Gakuin University

骨格筋細胞の発育発達や再生には筋衛星細胞(筋サテライトセル)が重要な役割を果たしている。温熱刺激により骨格筋が肥大されるが,これは筋肥大に関連した細胞内シグナルならびに筋衛星細胞を活性化することによると考えられている。また,骨格筋に対する温熱刺激は,筋タンパク質合成を促進あるいは分解を抑制することで,相対的に筋タンパク質合成能を高めることで筋タンパク質の増量を引き起こすことも示唆されている。一方,温熱刺激は,1) 筋衛星細胞のproliferative potentialを活性化させること,また2) 筋芽細胞の増殖や分化を促進すること,が明らかとなっている。したがって,骨格筋の再生に寄与すると考えられている筋衛星細胞は温熱刺激により活性化すると考えられることから,損傷した骨格筋組織に対して温熱刺激を与えることで損傷からの回復が促進することが予想される。そこで本研究では,骨格筋損傷モデルを用いて温熱刺激が損傷からの回復に及ぼす影響を検討した。
 ウィスター系雄性ラットの前頸骨筋にカルディオトキシンを注入することで,筋損傷モデルを作成した。カルディオトキシン筋注24時間前または直後に温熱刺激(41℃,60分間)を1回のみ与え,損傷からの回復に及ぼす温熱刺激の影響を組織化学的に検討した。カルディオトキシン筋注(筋損傷)1日および3日後に,筋重量の増加が観察された。筋損傷により増加した筋重量はその後14日後まで低下し,対照群に比べて有意に低値を示した。筋損傷14日後以降,再び筋重量は増加傾向を示した。筋損傷28日後における筋重量は,筋損傷24時間前あるいは直後に温熱刺激を与えた群が温熱刺激を与えない群に比べて有意に高値を示した。温熱刺激は筋損傷に伴う血清クレアチンキナーゼ活性の増加を抑制した。筋タンパク質量は,筋損傷により減少した。温熱刺激を与えた群では,筋損傷28日後には対照群と同レベルにまで回復したが,温熱刺激を与えていない群では回復は認められなかった。抗Pax7抗体で陽性となる核を持つ筋衛星細胞は筋損傷により一時的に減少し,筋損傷7日後には増加傾向が認められた。温熱刺激を与えた群では与えていない群に比べて,より長期間にわたり筋衛星細胞の増加が認められた。HE染色による組織像からも温熱刺激を与えることで中心核を持つ筋線維の減少ならびに筋線維横断面積の増加や均一化などが早期に認められた。以上より,温熱刺激は損傷骨格筋の回復を促進する作用をもつことが確認できた。無重量環境に滞在する宇宙飛行士の骨格筋萎縮および地球帰還後の損傷等に対する処方としても,温熱刺激は有用であろう。