治療方針を決定づける腎細胞癌の検体取り扱い
【質問事項】
1.摘出された腎臓周囲の脂肪組織により、固定不良となることがあります。早めに脂肪組織を外した方が固定には良いですが、浸潤評価に支障があってはいけません。良好な固定を考慮した管理についてご教示いただけますでしょうか。

2.腎腫瘍の病理診断にCA IVやGLUT-1は必須でしょうか。

3.腎腫瘍における組織型の診断や免疫組織化学的所見は、薬物療法を含む治療方針の選択にどのように反映されるのでしょうか。


【回答】
1.ご指摘の通り、腎周囲脂肪組織に厚く覆われた状態では、ホルマリンが腎実質まで十分に浸透しません。対応としては、まず依頼書に記載された腫瘍の部位や進展度を確認します。腎被膜と脂肪組織の間に癒着がなく、容易に剥離できる場合は浸潤の可能性が低いため、固定前に用手的に剥離しても問題ありません。ただし、癒着が認められる部位については剥離せず、脂肪を付着させたまま固定することで、正確な浸潤評価が可能となります。

2.腎癌の治療戦略は、淡明細胞型腎細胞癌(clear cell RCC; ccRCC)か非淡明細胞型(non-clear cell RCC)かによって大きく異なります。典型的なccRCC(肉眼的に黄金色、組織学的に繊細な血管網を背景とした淡明な細胞質を有する腫瘍細胞の増殖)であれば、HE染色のみで確定診断が可能です。しかし、講演でも触れたように、遺伝子異常に伴うクローン進化を遂げた症例では、多様な組織形態が混在し、他型との鑑別が困難になります。こうした症例や、情報が限られる生検検体などでは、VHL-HIF経路の活性化を反映するCA IX(CA9)が組織型確定のための重要なマーカーとなります。『腎癌取扱い規約 第5版』でも、主要な組織型の鑑別にCA IXが有用である旨が記載されています。一方、GLUT-1は腎癌の組織型診断において推奨される指標ではなく、日常診療では用いられません。抗体購入のコスト面が許容されるのであれば、診断精度向上のためにCA IXの導入を強くお勧めします。

3.進行性腎癌の治療では、従来のチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)や免疫チェックポイント阻害薬(ICI)に加え、新たにHIF-2α阻害薬も登場し、これらを組み合わせた多角的な治療選択が行われます。現時点では、これらの治療選択において必須となるPD-L1などのバイオマーカーやコンパニオン診断薬はありません。ガイドライン上、ccRCCに対しては多くの治療選択肢が示されていますが、non-clear cell RCCでは選択肢が限定されます。日常診療において、クローン進化を遂げたccRCCが誤ってnon-clear cell RCCと診断されることは、患者さんの治療機会を損なうことにつながります。このような事態を防ぐため、切り出しの段階から「ccRCCのクローン進化が肉眼的な色調や組織形態に反映される」という知見を念頭に置き、適切なサンプリングと診断を行うことが極めて重要です。

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