乳癌取扱い規約第19版:病理項目の改訂ポイント
【質問事項】
1.乳癌のホルマリンを臨床医が注入固定をしていますが,腫瘍径が大きいと中心部が固定不良になることが多い状況です.割入れを勧めたほうが良い目安はございますか.

2.腫瘍の固定状態を良くするために割入れや注射器でホルマリン注入などの方法がありますが,国内ではどのような方法が一般的でしょうか.

3.形態的に小葉癌でもE-cadherinが陽性になる場合の解釈について,解釈が難しいと感じています.もう少し詳しく教えて頂けますでしょうか.

4.乳腺の細胞診の役割は,この先にどのように変わっていく可能性がありますか.


【回答】
1.固定については,できれば病理部門で行うのが望ましいと考えます.外科の先生が固定をされる場合も,可能な限り早めに病理に提出していただくことが望まれます.腫瘍径に関わらず,注入固定した翌日に病理に出してもらい,病理で割を入れ,さらに(スライス毎,あるいは切り分けてカセット内で)固定を進める方法はいかがでしょうか.ご施設によって事情が異なると思われ,ゴールデンスタンダードはありませんが,話し合いによって,より現実的な良い方法を工夫してください.具体的な切り出しの方法につきましては,次の質問への回答をご参照ください.

2.統計的なデータを存じ上げませんが,日本乳癌学会による乳癌診療ガイドライン2022年版では,「腫瘍部分の検体を別取りして固定を行うか,腫瘍部近傍に割を入れたりすることで,速やかに腫瘍部の固定を行う必要がある.」との解説がなされています.私の施設ではホルマリンを注射器で注入し,必要に応じて翌日割を入れ,さらに固定を進めています.摘出後直ちに検体に割を入れて固定する場合は,検体の胸壁側から腫瘍の中心部をめがけ,切り出し方向に直交する向きに切ります.腫瘍の大きさや分布にもよりますが,皮膚まで全層切る必要はありません.場合によっては,軽く一針縫って変形を防ぎます.また,研究機関の中には,検体の一部を切り取って別途保存している施設もありますので,そのような場合は,主病巣を別取りする方法も一考に値すると思います.

3.私自身は,浸潤性小葉癌の診断は概ねHE染色標本のみで行っています.小葉癌か乳管癌か迷うような場合にE-カドヘリンの免疫染色を追加していますが,このやり方ですとE-カドヘリンの陰性,陽性の結果でそれぞれ小葉癌,乳管癌と判定することになります.形態的に定型的な(古典型の)浸潤性小葉癌に対して,E-カドヘリンの染色を実施した場合に,一部の症例が陽性になりますが,そのようなケースに限って「E-カドヘリン陽性の浸潤性小葉癌」と判断しているのが実情です.古典型以外の浸潤性小葉癌の場合には,E-カドヘリンが陽性となってしまうと,小葉癌とすることが難しくなるように思います.浸潤性小葉癌は特徴的な転移経路や晩期再発などの特徴を有することが知られていますので,そのような症例を分別するためのより客観的な鑑別方法の確立が望まれます.E-カドヘリンの抗血清(標識するドメイン)による差,p120カテニンの発現との関係,CDH1遺伝子異常・エピジェネティックな変化などとの相関も含め,今後さらなる検討が必要と思われます.

4.細胞診を行う適応は,採取される医師の考えにも大きく左右されるようにも思いますが,針生検に比して侵襲が少ない,簡便な方法であることは間違いありません.かつてのようにまず細胞診を行い,異常があれば次に組織診という順序ではなく,最初から役割を分けたほうが良いと思います.また,限られた量の細胞で判定を行いますので,臨床像,画像診断との対比(いわゆるトリプルテスト)が実施できる環境が望まれます.臨床や画像で明らかな悪性が推定される症例では,免疫染色等が実施できる針生検が第一選択です.一方,明らかな良性病変が推定される場合,特に超音波検査で描出される腫瘤性病変(炎症性病変や単純嚢胞を含む)は,穿刺吸引細胞診が優先されて良いと思います.また,第2病変の検索(癌が確定した後,術前に別病変が発見された場合など)や,腋窩リンパ節への癌転移の有無の検索などにおいても細胞診が有用です.

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