好銀性線維鍍銀染色の原理とポイント
【質問事項】
1.酸化剤として過ヨウ素酸を使用する場合のデメリットはありますか.

2.アンモニア銀の廃液処理で塩酸水を添加する場合,割合や濃度に目安はございますか.

3.肝細胞が赤く染まらない時の原因や対策はございますか(ケルンエヒテロートは使用していません).

4.アンモニア銀の還元はホルマリンのみで可能ですが,鉄ミョウバンの必要性について作用などから教えていただけないでしょうか.

5.還元力の強さはヒドロキノン>ホルマリンとのお話でしたが,鍍銀法でヒドロキノンではなくホルマリンを使う利点は何でしょうか.

6.酸性硬膜定着液の使用で色調が淡くなるため30秒に短縮していますが,効果は果たせているのでしょうか.


【回答】
1.調査した限りでは,酸化剤過よう素酸のデメリットは見つかりませんでした.

2.一般的に調製されている10%硝酸銀10mlから最終的に200mlのアンモニア銀液(使用液)を調製し,その全量200mlを0.1N塩酸(調製法は下記参考)で処理して塩化銀にする場合,下記の計算のごとく,約58.9mlの0.1N塩酸が必要となります.従って,アンモニア銀廃液/0.1N塩酸 = 約10/3の比で混合処理できます.実際は,染色操作によりアンモニア銀の消費及び液の持ち出しでアンモニア銀の量が少ないので,10/3の比の混和で十分です.その比で混和し放置すると重い塩化銀は沈殿しますので,その上清に0.1N塩酸を少量添加し,さらに沈殿が生じないようでしたら,アンモニア銀廃液中の銀イオンは完全に塩化銀として沈殿したものと考えられます.
①0.1N塩酸の調製法
 濃塩酸(約12N塩酸)から0.1N塩酸は,下記式から計算できる.
 12N × x ml = 0.1N × 1000ml → x = 約8.33ml
 蒸留水約500-600mlへ約8.33mlの塩酸を徐々に滴下し,さらに蒸留水を添加して全量を1Lにして,0.1N塩酸を調製する(正確には,滴定して正確な濃度を求めるが,アンモニア銀廃液処理用なので滴定は不要).
②0.1N塩酸必要容積
 10%硝酸銀10mlには硝酸銀が10ml × 0.1 = 1g含まれるので,そのグラム当量は1g/169.87 =約0.00589g(注:硝酸銀の分子量:169.87)となる. Ag + HCl → AgCl ↓ + H+ なので,AgとHClは1:1の比(同じグラム当量)でAgClの沈殿が生成する.従って,上記のアンモニア銀液200ml(使用液)を処理するのに必要な0.1N塩酸の容積は,式V(容積) = n(グラム当量)/C(濃度)から下記のごとく計算される.
 V = 0.00589/0.1 = 0.0589L → 約58.9ml

3. 鍍銀染色の詳細な具体例が記載されている下記文献1)によりますと,“酸化時間が長いと核が染まらなく,逆に短いと全体が黒く染まる.肝生検材料切片を0.5%過マンガン酸カリウムで3分間酸化すると,肝細胞の細胞質の周辺が抜けているようになる.同じ肝生検で,過よう素酸酸化では肝細胞の細胞質も均一に反応している”とのことです.現在の鍍銀染色での過マンガン酸カリウムの酸化条件が不明ですが,現在の条件で肝細胞の染まりが薄いようでしたら,酸化条件を弱めにされることを提案いたします(例:酸化時間を短くする).それでも肝細胞が染まりにくいようでしたら,下記文献では,過マンガン酸カリウム酸化標本に比べ,過よう素酸酸化による染色標本では肝細胞が赤く染まっていますので,過よう素酸を試されることを提案いたします.
参考文献:1) 三浦妙太,畠山重春 監修:実践病理組織細胞診染色法カラー図鑑(改訂版),近代出版,1999

4. 多くの染色に関する書籍中の鍍銀染色の還元液には鉄ミョウバン入りのホルマリンが使用されているので,多くの施設でその還元液が使用されているものと思います.ホルマリンと鉄ミョウバン入りホルマリンを比較検討された方のお話ですと,後者の鉄ミョウバン入りのホルマリンの方が良い染色結果が得られたとのことでした.その鉄ミョウバンの役割について文献やネットでなどで調査いたしましたが,その役割ないし原理については不明でした.ホルマリンを含め多くの還元剤の還元力は,pHが低めの方が強くなりますが,文献上,鉄ミョウバン水溶液のpHは1.8 (100g/l, H2O, 20℃条件下)となり,その低いpH値によりホルマリンの還元力が強くなることが考えられます.しかし,そのことが鉄ミョウバン入りホルマリンが鍍銀染色用の還元剤として良い結果をもたらしているかどうかは不明です.

5.細網線維鍍銀染色で還元剤にヒドロキノンを使用している文献は探せなかったため,実際のことは分かりませんが,還元力の穏やかなホルマリンの方が銀粒子は大きく成長し,より特定部位が強く発色すると考察されます.細網線維ないし他の部位に存在する銀イオンAg+が徐々に還元されて金属銀になり,その銀が先に還元されて生じている銀微粒子の上に沈着して銀粒子が大きく成長すると考えられますが,還元力の強いヒドロキノンだと多くの銀イオンが同時に早く還元されて金属銀になり,銀微粒子への沈着がしにくく,銀粒子は大きく成長しにくいと考察いたします.

6.定着操作は組織部位中に残留する銀イオンを溶出させるのが目的ですが,写真用酸性硬膜定着液で30秒定着処理して作成された標本で,保存期間中に標本が部分的に変色していないようでしたら,現在の条件で定着は十分完了していると考えられます.もし,定着不十分の場合,定着されずに組織部位に残留する銀イオンが標本作製後光により還元され,その結果,標本の色が部分的に変わると考察されます.

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