仙台赤十字病医誌　Vol.32, No.1, 57-62, 2023

症例報告

Performance Status不良の転移性肺癌患者に対し人工呼吸管理下での化学療法が奏効した1例

仙台赤十字病院　^1）呼吸器内科，^2）外科

徐　　東傑^1）　　塩谷梨沙子^1）　　川口　陽史^1）
千葉　茂樹^1）　　清水川　稔^1）　　角川陽一郎^2）
三木　　誠^1）

A Case of Metastatic Lung Cancer in a Patient with Poor Performance Status Receiving Mechanical Ventilation Who Was Successfully Treated with Chemotherapy

^1）Department of Respiratory Medicine, ^2）Department of Surgery, Japanese Red Cross Sendai Hospital

Touketsu JO^1）, Risako SHIONOYA^1）, Yoji KAWAGUCHI^1）, Shigeki CHIBA^1）, Minoru SHIMIZUKAWA^1）, Yoichiro KAKUGAWA^2） and Makoto MIKI^1）

要旨

症例は64歳女性．9年前に右乳癌に対し手術および化学放射線療法を施行し，その後4年前まで内分泌療法を継続していた．呼吸苦と咳嗽を主訴に当院を受診し，入院となった．CTにて右主気管支の完全閉塞をきたす腫瘤性病変と多量の右胸水貯留を認め，胸水病理診断の結果より乳癌の肺転移と診断した．入院後に呼吸性アシドーシスが著明に悪化し，挿管下人工呼吸管理を開始した．ECOG PS4と全身状態不良であったが，本人と家族の強い希望があり，Bevacizumab+Paclitaxel療法を3コース行った．無気肺の改善により呼吸性アシドーシスが改善し，人工呼吸器を離脱できた．画像上も右肺門部病変の縮小と右胸水の著明な減少を認めた．第126病日に退院となり，退院後約1年が経過した現在も外来にて治療を継続できている．PS不良かつ挿管人工呼吸管理を要する状態であっても，化学療法を行うことにより生命予後が改善する症例がある．積極的治療を行う選択肢を含め，十分に情報を提供し，患者が納得のいく治療を選択できるように努めることが重要と考えられた．

Key words: 人工呼吸管理，PS不良，化学療法，乳癌，転移性肺癌