仙台赤十字病医誌 Vol.31, No.1, 43-48, 2022

症例報告

帝王切開術後の子宮創部から腹直筋に波及した膿瘍に対して保存的に治療しえた一例

仙台赤十字病院 産婦人科

後藤  恵  千坂  泰  谷口 智紀
濱田衣美子  西澤 圭織  笠原 祥子
氷室 裕美  柳田 純子  齋藤 美帆
太田 恭子  中里 浩樹  佐藤 多代
鈴木 久也

A Case of Conservative Treatment for an Abscess that Spread from the Uterine Wound to the Rectus Abdominis Muscle after Cesarean Section

Departments of Obsterics and Gynecology, Japaese Red Cross Sendai Hospital

Megumi GOTO, Hiroshi CHISAKA, Tomoki TANIGUTI, Emiko HAMADA, Kaori NISHIZAWA, Shoko KASAHARA, Hiromi HIMURO, Junko YANAGIDA, Miho SAITO, Kyoko OHTA, Hiroki NAKAZATO, Kazuyo SATO and Hisaya SUZUKI

要旨

手術部位感染はしばしば経験されるが,その中でも抗菌薬抵抗性で膿瘍を形成する症例も経験され,開腹ドレナージ術が選択されることが多い.今回,帝王切開術後の腟内からの上行性感染が子宮創部から腹直筋に波及して膿瘍を形成した症例に対して,適切な抗菌薬への変更と経皮的ドレナージ術により保存的に治療しえた一例を報告する.
 症例は30歳,自然妊娠後,当院を受診した.妊娠34週時に前期破水となったが,その後卵膜は自然閉鎖した.妊娠39週,陣痛発来と破水があり入院したが,臨床的絨毛膜羊膜炎,児頭骨盤不均衡で緊急帝王切開となった.術後,セフェム系を中心に抗菌薬を投与したが膿瘍形成したため,抗菌薬を変更し経皮的ドレナージ術を実施したところ奏功した.細胞壁合成阻害の抗菌薬に抵抗性で膿瘍形成した際は,細菌培養を参考にしつつM. hominisを念頭に置いた抗菌薬選択が必要であり,他科と連携し低侵襲のドレナージ方法を検討すべきである.


Key words: 妊娠,帝王切開術,手術部位感染症,腹直筋膿瘍