仙台赤十字病医誌 Vol.31, No.1, 3-17, 2022

総説

鑑別診断の難しさから考える甲状腺腫瘍における細胞診,組織診の意義と診断の将来

仙台赤十字病院 病理診断科

長沼  廣

Significance of Cytology and Histological Examination of Thyroid Tumors Considering the Difficulty of Differential Diagnosis and the Future of its Diagnosis

Department of Pathology, Japanese Red Cross Sendai Hospital

Hiroshi NAGANUMA

要旨

癌は3大疾病の一つであり,様々な臓器で癌の早期発見,早期治療が望まれる.甲状腺癌は予後の良い癌として知られ,罹患率も高くはないが,近年検診等で甲状腺腫瘍が数多く発見されている.超音波検査および細胞診と合わせた質的診断で,より小さな癌が見つかっている.甲状腺は他の内分泌臓器に比べて癌の種類が多く,鑑別診断が必要である.2017年に発刊されたWHOの新病理分類では良性,悪性の他に境界領域の腫瘍が分類されるようになった.術前に鑑別が難しいのは濾胞腺腫と濾胞癌,悪性腫瘍と境界領域の腫瘍である.2014年の細胞診ベセスダシステムでは分類を5段階に分け,質的診断を示唆するようになった.しかし,各分類でも良性,境界腫瘍,悪性腫瘍が含まれ,術前に確定診断をするのが難しい.術前診断における細胞診の意義,術後診断における病理組織診の意義,甲状腺腫瘍の遺伝子異常を元にした遺伝子診断の将来について解説する.


Key words: 甲状腺腫瘍,細胞診,組織診,遺伝子検索