仙台赤十字病医誌 Vol.30, No.1, 83-89, 2021

症例報告

帝王切開術後の腹直筋内に生じデスモイドとの鑑別を要した腹壁子宮内膜症の1例

仙台赤十字病院 1)外科,2)産婦人科,3)病理診断科

小林 照忠1)  佐藤  純1)  金子 直征1)
角川陽一郎1)  齋藤 美帆2)  手塚 文明3)
舟山 裕士1)

Abdominal Wall Endometriosis Developed in the Abdominal Rectus Muscle after Cesarean Section;Report of a Case

1)Department of Surgery, 2)Gynecology and Obstetrics and 3)Pathology, Japanese Red Cross Sendai Hospital

Terutada KOBAYASHI1), Jun SATO1), Naoyuki KANEKO1), Yoichiro KAKUGAWA1),
Miho SAITO2), Fumiaki TEZUKA3) and Yuji FUNAYAMA1)

要旨

腹壁子宮内膜症は比較的まれであるが,多くは手術瘢痕部位に発生する.今回われわれは皮下の腹壁子宮内膜症に対するホルモン治療中に指摘された腹直筋内病変について,デスモイドとの鑑別が困難であった症例を経験したので報告する.症例は34歳女性.4年前に帝王切開術を受けた後から創部皮下にしこりを自覚した.月経時の痛みのため婦人科を受診し,腹壁子宮内膜症と診断されて低用量ピルを処方された.痛みは軽減したが,2か月後の超音波検査で腹直筋内に別の腫瘤を指摘された.MRI検査では皮下と腹直筋内の腫瘤像は異なり,3か月後の超音波検査で腹直筋内の腫瘤のみ増大傾向があることから,デスモイドが疑われ,外科へ紹介された.生検には同意せず,皮下と腹直筋内の腫瘤を切除したところ,病理検査で両病変ともに子宮内膜症と診断された.術後に低用量ピルを再開し,4年半後の現在に至るまで,腹壁子宮内膜症の再燃や腹壁瘢痕ヘルニアの発生なく経過している.


Key words: 腹壁子宮内膜症,デスモイド,帝王切開術後