仙台赤十字病医誌　Vol.29, No.1, 45-49, 2020

症例報告

トルバプタン内服中に発症した急性腎不全を伴う重度高Na血症に対して末梢点滴で治療を行った1例

仙台赤十字病院　腎臓内科

塩谷梨沙子　　牧野　　塁　　千葉　祐貴
杉本　理絵　　山口　裕二

A Case of Severe Hypernatremia with Acute Renal Failure while Receiving Tolvaptan Treated by Peripheral Infusion

Division of Nephrology Department of Internal Medicine, Japanese Red Cross Sendai Hospital

Risako SHIONOYA, Rui MAKINO, Yuki CHIBA, Rie SUGIMOTO and Yuji YAMAGUCHI

要旨

症例は87歳女性．2日前からの乏尿と意識障害を主訴に救急搬送された．トルバプタン15mg/日内服による重度高Na血症（血中Na 170mEq/l）と，脱水による腎前性急性腎不全，代謝性アシドーシスの診断で入院となった．5%ブドウ糖液と生理食塩液を組み合わせた補液により治療を行った．3〜5時間毎に血中Na濃度を測定し，脳浮腫を引き起こさないように補正速度は0.5mEq/時以下とした．また血圧や尿量を見て循環動態を確認し，胸部レントゲン撮影，BNP測定を適宜行い心負荷にも注意を払いながら5%ブドウ糖液と生理食塩液の割合を変更した．第5病日には血中Na濃度は145mEq/lまで低下し，脱水，意識レベルも改善した．80歳以上の心不全患者では口渇感を訴える頻度が低く，高用量のトルバプタン投与により高Na血症を誘発しやすいため，注意して血中Na濃度をフォローする必要がある．重度高Na血症の治療として持続的血液濾過透析が一般的であるが，末梢補液を調整することで補正が可能である．

Key words: トルバプタン，高ナトリウム血症，急性腎障害，心不全