仙台赤十字病医誌 Vol.25, No.1, 71-78, 2016

症例報告

抗エリスロポエチン(EPO)抗体による
赤芽球癆を発症した慢性腎不全の1例

仙台赤十字病院 腎臓内科,*血液内科

山口 裕二  福原  修*  杉本 理絵
齋藤 陽孝

Pure Red Cell Aplasia Caused by Antibody to Epoetin β
in a Patient with Chronic Renal Failure

Division of Nephrology, *Division of Hematology, Department of Internal Medicine, Japanese Red Cross Sendai Hospital

Yuji YAMAGUCHI, Osamu FUKUHARA*, Rie SUGIMOTO and Harutaka SAITO

要旨

症例は76歳男性.73歳で腎不全.74歳時Hb 9.0g/dlにてエポエチンβ(EPO β)6,000U/2w皮下注を開始.76歳時に貧血の悪化を認め9,000U/2wに増量したがHb5.8g/dlに急減.消化管精査で異常なく,当科入院.赤血球157万/μl,Hb 4.6g/dl,網状赤血球0‰.骨髄穿刺で赤芽球癆と診断.抗EPO抗体形成を疑いEPO βは中止.抗EPO抗体はRIP法で69,501cpmと強陽性,造血阻止能で中和活性も確認.シクロスポリン,ステロイドパルスでは貧血は改善せず,免疫抑制下でEPO β 6,000U/w皮下注を再開した結果造血が回復した.抗EPO抗体はその後低下を続け,EPO β再開でも上昇を認めず,4ヶ月目にはELISA法で消失した.抗EPO抗体による赤芽球癆は1998〜2003年に欧州で急増した.自然寛解は稀で,腎移植やステロイド・免疫抑制剤が有効とされる.r-EPOの皮下注が一因とされ,欧州では禁止されている.抗EPO抗体消失後のr-EPO再投与では静注が勧められているが,本例の経験から皮下注による再投与の有効性が示唆された.


Key words:Pure red cell aplasia, Anti-EPO antibody, Maintenance therapy