仙台赤十字病医誌 Vol. 18, No. 1, 1, 2009

巻頭言

日赤災害救護班の行方

仙台赤十字病院長 桃野  哲

DMATが,災害直後の救護活動を目的に立ち上げられた当初,日赤は参加に消極的でしたが,その後,支援し参加する方針に変わりました。最近,各赤十字病院では,自主的に訓練を受けてDMATにメンバー登録している職員が増えており,病院単独で複数のDMATチームを職員のみで編成可能な施設もあります。
 救護活動は,出動した全スタッフが協調して効果的に行うのが理想で,発災直後には,被害の程度や範囲など正確な情報のもとで迅速に行う必要が有ります。災害の急性期に展開して救護活動をするDMATには,救護に出動した情報収集に長ける自衛隊が空と陸の連携で集めた正確な情報が,逸早くあがります。一方,日赤救護班は,やや遅れて入るこれらの情報に,日赤のネットワークからの情報も加味して被災地に入り,より地域に即した救護活動を行います。発災直後に出動する日赤救護班は,被災地近傍の病院や支部の職員で構成されることが多く,交通網,病院や集落の所在地などに明るく,DMATは全国から駆けつけたメンバーで構成される関係で地理には疎いかも知れません。発災直後の被災地では,DMATに地域事情に詳しい近くの赤十字病院職員や日赤支部のメンバーが加わる,ないしは日赤の救護班が一緒に行動すれば効率的な救護が出来ると考えられます。
 遠藤部長は,新潟県中越沖地震,岩手・宮城内陸地震のいずれにも救護班長として出動しており,本誌17巻では新潟県中越沖地震の救護活動を報告しています。今回の報告は,発災直後の急性期に活動したDMATと,急性期に出動してその後も引き続き被災地で活動したdERU装備の日赤宮城県支部災害救護班とが,岩手・宮城内陸地震の被災地で,一緒に行った救護活動の記録です。出動した救護班は,仙台と石巻両赤十字病院の混成で班員数が通常よりも多く,DMAT登録メンバーも加わっていました。報告では,最近結成されて,発災直後に急性期の救護活動を目的に集結したメンバーで編成されたDMATと,以前から継続されており,dERU導入でパワーアップした日赤災害救護班の活動を,「被災地でどのように融合させれば効果的に救護活動が出来るか」という視点からの分析も行われています。今後の災害救護活動で,dERUを装備した日赤救護班が,DMATや他団体とどう協調して活動するべきかを考える資料になると思われます。
 
 院内誌を発行する目的は,医師,看護師など多職種の職員が日常業務での経験を,症例報告や研究報告として発表出来る場を提供することと考えます。本号には,笹野伸昭東北大学名誉教授からの論説を筆頭に,原著,症例報告や看護部門からの看護研究等の論文が掲載されています。創刊号から継続して,病理学に関する論説を寄稿いただいている笹野名誉教授に厚く御礼申し上げます。また,今年も,多忙な仕事の合間に論文をまとめて投稿いただいた皆様と,編集を担当した山田編集長,編集委員の皆様のご協力により雑誌が発行できたことを,感謝致します。